「不安がないわけないんだよ、不安にならない方がおかしいんだよ。未来はそれを懸命に周りに押し隠してくれてただけだったんだよ。周りの俺たちの為に、俺たちに心配掛けないように。そんなこと、ちょっと考えればわかることなのに・・・。俺は今までお前の不安なんか、全然気が付かなかった。いや、違う。未来は強い子だって、勝手に決めつけて、未来の優しさに甘えて、現実から目を背けてたんだ。」


「・・・。」


「ごめんな未来、俺には何も出来ない。病気を治してやることはもちろん、お前の不安の一端でも背負ってやることすら出来ない。」


「翔くん、それは・・・。」


「俺がお前の側に居ても、やってやれること、力になれることなんか何もないんだよ。本当に、ごめん・・・。」


そう言って、翔平は唇を噛み締め、項垂れるように頭を下げる。その姿を見て、未来はハッとした表情を浮かべて俯く。また沈黙が流れた。


「未来。」


やがて、翔平がやや躊躇いがちに呼び掛けた。その声に顔を上げた未来をじっと見つめながら


「だけど、俺はこれからもお前の友だちで居たい。」


絞り出すような声で翔平は言う。


「お前と一緒に笑って、お前と一緒に泣いて、同じ景色を見て感動して・・・俺はそんな時間をお前と過ごせるようになりたい。お前といつも一緒に居られる、そんな日が絶対来るって信じてる。未来の病気は絶対に治る、俺はずっとそう信じてる。だからお前も親が自分に付けてくれたこんな素敵な名前が嫌いだなんて、そんなこと言うな。自分の未来を絶対に諦めちゃダメだ。自分の未来を信じて、周りを信じて、真っ直ぐに前だけを見ていて欲しいんだよ。」


「翔くん・・・。」


未来の目から涙が溢れ出す。そんな彼女の肩に手を置き


「俺のこんな勝手な思い、お前には迷惑か?ただ重いだけかな・・・?」


問い掛ける翔平に、未来は大きく首を横に振った。


「そんなこと、そんなことないよ。嬉しい、とっても嬉しい。翔くん、ありがとう。翔くんが応援してくれてる限り、私も絶対に諦めない、約束するね。」


涙ながらに言う未来に


「おう。信じて、待ってるぜ。」


翔平がニヤリと笑って、未来の頭を優しくポンポンと叩く。その仕草に、未来は泣き笑いの顔で、でも嬉しそうに翔平を見つめる。


(翔平くん、ありがとう・・・。)


そんな2人の様子を、陰からじっと見ていた景子の目からも、涙が溢れていた。