結局、理央は夏休みを病院で迎えることになった。友人たちとの約束も当然キャンセルせざるを得ず、寂しそうな表情を浮かべる彼女に、未来は掛ける言葉が見つからなかった。


そんなある日のことだった。理央が通っている院内学級も夏休みカリキュラムで、この日は午前中だけ。戻って来た理央が昼食を終えると、ちょうど午後の面会時間となった。すると、それを待ちかねたかのように


「おい理央、起きてるか?」


と言いながら、元気な男子が、母親とおぼしき女性と一緒に病室に入って来た。


(まこと)くん、叔母さん。」


2人の顔を見て、理央は驚き、そして次に満面の笑みになった。


「理央ちゃん、お久しぶり。どう、具合は?」


「はい、最近はだいぶ落ち着いて来ました。」


「そう、ならよかった。」


理央の返事に、嬉しそうに頷いた女性の横で


「お前さぁ、いつまで病院にいるつもりなんだよ。せっかく久しぶりに一緒にお祭り行こうと思ってたのにさ。」


男の子は遠慮ない口調で言う。


「えっ、じゃ真くん、しばらくこっちにいられるの?」


「そうだよ。今度俺が帰って来たら、一緒に浴衣着て神社のお祭り、行く約束だったろ?」


「ごめんごめん。でもお祭りまでには、たぶん退院できるから。」


「本当かよ?理央の言うことはあてになんねぇからな。」


「真、なんてこと言うの。理央ちゃんは病気なんだから、仕方ないでしょ。」


「叔母さん、大丈夫です。真くんの容赦のないのには慣れてますから。」


傍で未来が聞いていて、ビックリするようなことを平気で言う真に対して、でも理央は明るい表情を浮かべて、気にする様子もない。そのあとも賑やかな様子で1時間近く話していたが、そろそろ失礼しましょうと、母親が真を促した。


「叔母さん、今日はありがとうございました。」


「なんだよ、俺にはありがとうはねぇのかよ。」


「もちろんあるよ。真くん、ありがとう。」


「おぅ。じゃ理央、また来るからな。元気出せよな。」


そう言って、ニカッと理央に笑って見せると、真は母親と連れ立って帰って行った。入れ違いに未来が病室に入ると、理央は明るい表情で、彼女を迎えた。


「元気のいい男の子だね。」


河口(かわぐち)真くん、1つ年下の従弟なんです。」


「えっ、理央ちゃんより年下なの?っていうかまだ小学生なの、彼?背は高いし、理央ちゃんのことも呼び捨てだから、当然理央ちゃんより上だと思ってた。」


「そうですよね。真くん、叔父さんの仕事の都合で、今は海外に行ってるんで、私も久しぶりに会って、随分背が伸びたなって思って聞いてみたら、165cmあるって。」


「165?小6で?私より全然高い。」


「私もビックリしました。でも真くん、小さい頃からサッカ-やってて、そのせいもあると思います。向こうでもチ-ムに入っていて、なんかエースストライカ-なんだって自慢してました。」


「そっか、彼もサッカ-少年なんだ・・・。」


未来はポツンと呟いた。なぜか、甘酸っぱい思いが、胸の中にこみ上げて来ていた。