病院には、代表チ-ムの関係者も詰めていたし、翔平のエージェント(マネ-ジャ-)も到着した。


「なんか大事になっちまったな。」


翔平は独り言ちた。やがて朝食が運ばれて来た、昨日の昼から何も食べていないが、食欲は全くなかった。それでも痛みを感じない今のうちに、何か口にした方がいいと、母親の介添えで食事を摂る。


それが終わる頃に


「翔平!」


と血相を変えた朱莉が飛び込んで来た。


「ごめんなさい、すぐにでも駆け付けたかったんだけど・・・。」


と心配顔で翔平に近付こうとした彼女は、両親やチ-ム関係者らの存在に気付き、慌てて彼らに会釈をする。


「心配かけてすまなかったな。」


そんな朱莉に、さっきの両親に掛けたのと同じ言葉を告げて、翔平は微笑んだ。


「でも酷いよ。せっかくケガから復帰したばかりなのに、こんなことになっちゃって・・・。いくらなんでも酷過ぎる。」


そんな翔平とは対照的に目に涙を浮かべながら、朱莉は憤りの言葉を発する。


「しかたねぇよ。事故だからな。」


「事故じゃないよ、完全に故意じゃない。独走する翔平を阻止しようと、ファール覚悟で飛び込んで来たんでしょ!」


尚も怒りの声を上げる朱莉に、両親もチ-ム関係者も思わず言葉を失うが


「確かにそうかもしれねぇが、こんなケガをさせようとしたわけじゃねぇ。雨で思った以上にスリップしてしまって、勢いが止まらなかったんだ。不可抗力だよ。」


「翔平・・・。」


あくまで穏やかに諭すように言う翔平に、朱莉もそれ以上の言葉は飲み込むしかなかった。そんなところへ


「失礼します。」


と一人の男性が白衣姿で現れ、更に続いてモニタ-装置を押しながら、恵が従うように入って来た。


「初めまして。当院整形外科病棟の医師、黒部です。高城さん、一応あんたの担当医ということになるんでよろしく。」


そう言って、軽く頭を下げた黒部勝也(かつや)は、ガッチリとした体格と、医師らしからぬ風貌と口調で迎えた面々を驚かせた。


「そうですか。高城です、この度はお世話になります。でも後ろの元クラスメイトの美人女医さんが俺の担当なのかとワクワクしてたんで、残念です。」


そんな中、冗談とも本気ともつかない表情で返した翔平に、これまた周囲は驚き、朱莉は翔平を睨む。


「へぇ、そうだったのか。それは思わぬ再会だが、コイツはまだ研修医でね。とても今のあんたの主治医なんか務まらんよ。諦めてくれ。」


一方の黒部も表情1つ変えずに言い返すと


「恵、モニタ-点けろ。」


指示を出した。