「せっかくここまで来たのに、まさか福井家がふたつあるとは……」

 いつまでもポストの前でウロウロしていては、またもや不審がられると警戒したわたしたち。エントランスを出てすぐの壁にもたれかかり、作戦を練る。

「やっぱり、福井くんに聞くしかないのかなあ」
「ばか。住所も教えてくれない福井斗真が、部屋の番号なんか言うわけないでしょ」
「そうだよねえ。じゃあもう、わたしがみんなにチキンを奢れば、教えてくれるのかなあ……」
「なに言ってんの。きっととんでもない金額になるよ。一体何人で賭け事してんのよ、あいつら」
「だ、だよね」

 壁際にズズズと落ちていく、ふたつの体。

 ぎゃふん。そんな文字が、頭に浮かんだ時だった。

「じゃあね、福井さん」

 誰かにそう言われ、手を振り別れた女性がこちらへとやって来る。
 年齢は、わたしたちより些か下だろう。中校生のような制服、顔立ちだった。

 福井くんとの数少ないプライベートの会話から、彼の家族構成を探る。兄弟や姉妹の話は耳にしたことがないから……彼はおそらく、ひとりっ子。
 ということは、この女性が住んでいない方の部屋に、福井くんが住んでいるということになる。

 ピカンと閃いたのは美希ちゃんも同じ。わたしたちは輝きを取り戻した瞳と共に、立ち上がった。

 ふんふんと下手な鼻歌を奏でつつ、わたしと美希ちゃんは、彼女の少し後ろから再びエントランスへと入って行く。その彼女は何も気にしない様子でロックを解除、ドアの向こうへと進んで行った。もちろん、わたしたちも後をつける。

「何階ですか?」

 エレベータの中、ボタン傍でフロアを訪ねてきた彼女に対して、美希ちゃんは平然と「十五階です」と言っていた。
 彼女は『15』のボタンを押した後に『2』のボタンを押す。

 二階へ着けば、彼女は降りる。扉が閉まったその瞬間、わたしたちふたりに溢れたのは勝利の笑み。

「あの子が二階の住人ってことは、十階の方だね、福井斗真の家は!1001!」
「うん!絶対そう!ありがとう美希ちゃんっ」
「あ、でも一応聞いとく?福井斗真に妹がいるかどうか」

 興奮していても、美希ちゃんは冷静だ。
 福井くんに妹などいない自信がどこかにあったわたしだけれど、念には念を。

「うん。それとなく聞いてみる」

 確認することに決めた。

 十五階へ着いたわたしたちは、階段を下りて『1001』の場所を特定する。

 バレンタインデー当日は、ここで福井くんにチョコを渡すんだ。