あかりの吐瀉物を片付け、布団を庭に干していたときだった。陽光に照らされる庭の静寂を切り裂いて、あのおばあちゃんの声が、墓石の方から直接僕の脳内に響いてきた。
「あかりちゃんにしたこと……見ていたよ。あかりちゃんが吐いたものを身体につけていたね。口に指を突っ込んでいたのも分かっているよ。私にしていたことと同じことを、今度はあの子にしていたんだね」
声は、どこか安堵し、そしてどこか恨めしげでもあった。
「あそこまで好きになっちゃったんだね。ようやく私から、あかりちゃんの方へ本当の意味で向いてくれた。これで、ようやく成仏できる……」
おばあちゃんの言葉に、僕は思わず手を止めた。当時の僕の歪な愛情は、彼女にとっては愛でもあり、同時に耐えがたい苦痛でもあったのだ。
「ばあちゃん、聞いてくれ」
僕は誰もいない墓石に向かって、必死に弁解した。
「あれは、僕が意図的にやったんじゃないんだ。昨日の結婚式の後、みんなで祝杯をあげて、あかりが初めての酒で本当に酔っ払ってしまって……。あの子が苦しんでいるのを助けようとした結果で、決してわざと汚したわけじゃないんだ」
僕の必死な言葉に、風が庭の草木を揺らした。おばあちゃんは、死者となってなお僕の中に巣食っていた嫉妬や執着を、あかりという存在を通して浄化しようとしていたのだろうか。
少しの沈黙の後、声は驚くほど優しく、そしてどこか清々しく響いた。
「……そうかい。わざとじゃなかったのか。あかりちゃんを守ろうとしてのことだったんだね」
疑念が消え去ったのを感じた。おばあちゃんは僕の言葉を信じてくれた。もう彼女は、僕の家の庭に縛り付けられる必要はないのだ。
「ばあちゃん、今まで本当にごめん。そして、ありがとう」
僕がそう呟いた瞬間、庭を吹き抜ける風がふわりと温度を変えた。どこか重苦しかった空気が霧散し、ただ心地よい初夏の光だけが僕と布団を照らしていた。
あかりを汚してしまった罪悪感と、それを許してくれたおばあちゃんの慈悲。僕の中で、ようやく一つの物語が終わった。あかりの吐いたものさえ愛したその夜の出来事は、おばあちゃんを迷いから解き放つための、最後の儀式だったのかもしれない。
庭にはもう、誰もいない。ただ、新しい門出を祝うような、穏やかな静寂だけが広がっていた。
「あかりちゃんにしたこと……見ていたよ。あかりちゃんが吐いたものを身体につけていたね。口に指を突っ込んでいたのも分かっているよ。私にしていたことと同じことを、今度はあの子にしていたんだね」
声は、どこか安堵し、そしてどこか恨めしげでもあった。
「あそこまで好きになっちゃったんだね。ようやく私から、あかりちゃんの方へ本当の意味で向いてくれた。これで、ようやく成仏できる……」
おばあちゃんの言葉に、僕は思わず手を止めた。当時の僕の歪な愛情は、彼女にとっては愛でもあり、同時に耐えがたい苦痛でもあったのだ。
「ばあちゃん、聞いてくれ」
僕は誰もいない墓石に向かって、必死に弁解した。
「あれは、僕が意図的にやったんじゃないんだ。昨日の結婚式の後、みんなで祝杯をあげて、あかりが初めての酒で本当に酔っ払ってしまって……。あの子が苦しんでいるのを助けようとした結果で、決してわざと汚したわけじゃないんだ」
僕の必死な言葉に、風が庭の草木を揺らした。おばあちゃんは、死者となってなお僕の中に巣食っていた嫉妬や執着を、あかりという存在を通して浄化しようとしていたのだろうか。
少しの沈黙の後、声は驚くほど優しく、そしてどこか清々しく響いた。
「……そうかい。わざとじゃなかったのか。あかりちゃんを守ろうとしてのことだったんだね」
疑念が消え去ったのを感じた。おばあちゃんは僕の言葉を信じてくれた。もう彼女は、僕の家の庭に縛り付けられる必要はないのだ。
「ばあちゃん、今まで本当にごめん。そして、ありがとう」
僕がそう呟いた瞬間、庭を吹き抜ける風がふわりと温度を変えた。どこか重苦しかった空気が霧散し、ただ心地よい初夏の光だけが僕と布団を照らしていた。
あかりを汚してしまった罪悪感と、それを許してくれたおばあちゃんの慈悲。僕の中で、ようやく一つの物語が終わった。あかりの吐いたものさえ愛したその夜の出来事は、おばあちゃんを迷いから解き放つための、最後の儀式だったのかもしれない。
庭にはもう、誰もいない。ただ、新しい門出を祝うような、穏やかな静寂だけが広がっていた。

