しゃべる人形

葬儀の朝も、空は悲しみに寄り添うように雨を降らせていた。おばあちゃんが息絶えた日と同じ、冷たい雨。
「この雨、おばあちゃんの涙かもしれないね」
誰かがそう呟くと、みんな静かに頷いた。だけど僕には、この繰り返される雨の巡り合わせに、何かもっと別の、奇妙な違和感が突き刺さっていた。
朝、眠りから覚めた母親がリビングに現れた。僕は、昨夜隣の部屋から響いていたあの音を思い出し、嫌味を込めて言った。
「母さん、昨夜の歯ぎしり、うるさかったよ」
遥や安奈はくすくすと笑った。母親は、自分が猫の姿で何をしていたかなど微塵も覚えていないような、見事なとぼけ顔を作った。
「あら、あれじゃないの? ちびが歯ぎしりしてたのよ。あるいは、ぬのが何かやっていたんじゃないの?」
自分が猫に化けていたなどとは決して口にしない。母のその頑なな仮面を見て、僕は苦笑するしかなかった。
やがて上松が迎えに来た。葬儀場へ向かうため、みんなで車に乗り込もうとした時だった。
「うわっ……なんだこの車、汚ねえな」
後部座席を開けた途端、むせ返るような独特の臭気が漂ってきた。シートの上には、無数のコンドームが散乱し、灰皿からはタバコの吸い殻が溢れ出していた。上松が以前、どれほど節操のない夜を過ごしてきたかを如実に物語る光景だった。
上松は真っ赤になって立ち尽くした。僕は呆れを通り越して笑いが込み上げた。
「上松、お前なあ……。せめて片付けてから迎えに来いよ」
あかりのお母さんは、呆れ果てたような、あるいは哀れむような目つきで上松を見つめ、溜息混じりに言った。
「もう……この男は本当にやりまんだから。しょうがないわね」
あかりもまた、後部座席の惨状を見て、悲しみを忘れたように大笑いしていた。張り詰めていた葬儀の緊張感が、そのあまりの汚らしさによって強制的に解かされていく。
僕たちは、コンドームを袋に詰め込み、吸い殻を掃き出して、ようやく車内に乗り込んだ。向かう先は小さな葬儀場。親族もいない、僕たちだけの、こぢんまりとしたお別れの場所へ。
雨音だけが響く車内で、上松の汚い過去を背負いながら、僕たちはひっそりと、しかし確かに、おばあちゃんを送り出す旅を始めた。