しゃべる人形

夜が更けるにつれ、僕たちの泣き腫らした目も少しずつ落ち着きを取り戻していた。そんな時、部屋の空気がふっと変わった。
玄関の方から、聞き慣れた足音が近づいてくる。先ほどまで道路で獲物を狙うように喉を鳴らしていた「巨大な猫」が、いつの間にか人の姿に戻り、リビングに現れた。僕の母親だ。
彼女は、先ほどまでの威圧的な気配をどこかに置き忘れてきたかのように、穏やかな表情をしていた。
「今日は本当に大変だったね。あかりさん、それに皆さん……いつも息子がお世話になっていますね」
彼女はそう言って、僕たちを見渡した。みんなと楽しそうにしているのを見て安心したのか、少しだけ微笑みさえ浮かべていた。彼女は慣れた手つきでお茶を淹れ、僕たちに振る舞ってくれた。さっきまでの修羅場が嘘のような、静かで穏やかな時間が流れる。
けれど、彼女の顔には隠しきれない疲労が滲んでいた。昼間からずっと、彼女もまた、張り詰めた糸の上を歩いていたのかもしれない。
「ごめんね、私、もう疲れちゃって。先にお布団に入るから。……あとは皆で、やりたいようにやっていって」
彼女はそう言い残すと、眠たげな足取りで寝室へと向かった。
僕がそちらを覗くと、いつの間にか布団の上には不思議な光景が広がっていた。先ほどの大きな猫、いくちび、そして母親が猫の姿に戻ったのか、あるいは猫たちが重なっているのか。布団の上には、でっかい猫が3匹、丸まって静かな寝息を立てている。
「やりたいようにやって」
その言葉は、僕たちへの赦しのようにも聞こえた。
僕の母親であり、時に僕を縛り付ける巨大な猫でもあった彼女が、今はただの眠る生き物としてそこにいる。その光景の奇妙さと、奇跡のような安らぎに、僕たちは顔を見合わせ、ただ小さく笑った。
もう、何も恐れることはない。
静まり返った部屋で、僕たちは亡きおばあちゃんの思い出を胸に、ようやく心から安らぐ夜を過ごすことができた。