しゃべる人形

病院を出た足で、僕たちは急いだ。おばあちゃんの死を、一刻も早く皆に伝えなければならない。あかりのガラケーではグループラインが使えない。僕たちは、閉店間際のドコモショップへ駆け込んだ。
店内に響く独特の電子音と、冷たい空調の風。店員に事情を話し、あかりの新しいスマホへのデータ移行が始まった。慣れない作業に店員も少し苦戦し、その間、僕はただ祈るような気持ちで待ち続けた。二時間。時計の針が進むたびに、心に重い鉛が溜まっていくような時間だった。
その間、遥と安奈には、先に僕の家へ向かってもらった。おばあちゃんを静かに安置するために。
ようやく移行が終わり、あかりのスマホに命が吹き込まれた。震える指先でグループラインを開く。画面の向こうには、上松や正司正男がいる。僕たちは、おばあちゃんの訃報をその一行に打ち込んだ。
送信ボタンを押した瞬間、僕の心の中にあった「孤独」という名の塊が、少しだけ霧散したように感じた。
今まで文明の利器なんて、ただの道具だと冷めた目で見ていた。でも、あの一瞬、何百キロ離れていても、あるいはすぐそばにいなくても、繋がっているという事実が、どれほど僕たちの背中を支えてくれたことか。画面越しに広がる皆の反応を待ちながら、僕は初めて、この現代の技術を「救い」だと思った。
便利さの裏側にある薄っぺらな人間関係に憤りを感じていた自分が、今、この便利さに救われている。その矛盾を抱えながらも、僕は確かに、スマホから伝わる情報の光に、明日を生きるための小さな熱を感じていた。