何度か呼び出し音が続いた後、受話器の向こうからかすかに眠たげな声が聞こえた。
「……はい。もしもし?」
「あかり……ごめん、起こしちゃったよね」
「ううん、私ちょっと寝てただけだから。……秋夫君、どうしたの? 何かあったの?」
あかりの心配そうな声を聞くと、夢の残り香が急に現実味を帯びて迫ってきた。僕は言葉に詰まりながらも、喉の奥から絞り出すように言った。
「実は、ひどく怖い夢を見て……。あかり、ショックかもしれないんだけど。あかりが前、話してたこと……中学の時に人形を藪に捨てられたって話、あれを夢で見ちゃったんだ」
電話の向こう側で、あかりが息を呑む気配がした。静寂のあとに、微かに鼻をすする音が聞こえる。彼女は、静かに泣き始めていた。
「……そっか。秋夫君、ごめんね。変なこと話して、嫌な思いさせたよね」
「ううん、そうじゃないんだ。ただ、放っておけなくて……」
「大丈夫だよ、秋夫君」
あかりの声は、涙を含みながらも凛としていた。
「あれはもう、過去のことだから。終わったことなの。秋夫君がそんなに気にすることじゃないよ。……ね、もう遅いし。明日、学校で会おう」
「……うん、分かった。ごめんね、あかり」
プツリと通話が切れた。静寂が部屋に戻ってくる。僕はスマホを握りしめたまま、天井を見つめた。
これがいつか、現実になってしまうのではないか。そんな予感が僕の背筋を冷たく撫でる。なぜ、あかりの過去が僕の夢に現れるのか。
僕なりの解釈では、それは僕の弱さの証明だった。もしあかりが傷ついたらどうしよう、もしあかりが消えてしまったらどうしよう――。そんな失うことへの怯えが、夢という皮肉な形で僕の心を侵食する。
いや、それだけじゃない。あかりが僕を信じてくれているからこそ、彼女の心の奥深くにある記憶が、無意識のうちに僕に流れ込んでいるのかもしれない。
好きになればなるほど、過去までもすべて受け入れたいと願ってしまう。でも、それを知れば知るほど、僕は彼女の痛みと共有することになる。人間生活とはなんと皮肉なものだろうか。誰かを想うことが、そのまま誰かの傷を背負うことにつながるなんて。
高校生の僕には、そのあまりにも残酷で、そして逃れようのない運命が、ひどく痛いほど分かっていた。
「……はい。もしもし?」
「あかり……ごめん、起こしちゃったよね」
「ううん、私ちょっと寝てただけだから。……秋夫君、どうしたの? 何かあったの?」
あかりの心配そうな声を聞くと、夢の残り香が急に現実味を帯びて迫ってきた。僕は言葉に詰まりながらも、喉の奥から絞り出すように言った。
「実は、ひどく怖い夢を見て……。あかり、ショックかもしれないんだけど。あかりが前、話してたこと……中学の時に人形を藪に捨てられたって話、あれを夢で見ちゃったんだ」
電話の向こう側で、あかりが息を呑む気配がした。静寂のあとに、微かに鼻をすする音が聞こえる。彼女は、静かに泣き始めていた。
「……そっか。秋夫君、ごめんね。変なこと話して、嫌な思いさせたよね」
「ううん、そうじゃないんだ。ただ、放っておけなくて……」
「大丈夫だよ、秋夫君」
あかりの声は、涙を含みながらも凛としていた。
「あれはもう、過去のことだから。終わったことなの。秋夫君がそんなに気にすることじゃないよ。……ね、もう遅いし。明日、学校で会おう」
「……うん、分かった。ごめんね、あかり」
プツリと通話が切れた。静寂が部屋に戻ってくる。僕はスマホを握りしめたまま、天井を見つめた。
これがいつか、現実になってしまうのではないか。そんな予感が僕の背筋を冷たく撫でる。なぜ、あかりの過去が僕の夢に現れるのか。
僕なりの解釈では、それは僕の弱さの証明だった。もしあかりが傷ついたらどうしよう、もしあかりが消えてしまったらどうしよう――。そんな失うことへの怯えが、夢という皮肉な形で僕の心を侵食する。
いや、それだけじゃない。あかりが僕を信じてくれているからこそ、彼女の心の奥深くにある記憶が、無意識のうちに僕に流れ込んでいるのかもしれない。
好きになればなるほど、過去までもすべて受け入れたいと願ってしまう。でも、それを知れば知るほど、僕は彼女の痛みと共有することになる。人間生活とはなんと皮肉なものだろうか。誰かを想うことが、そのまま誰かの傷を背負うことにつながるなんて。
高校生の僕には、そのあまりにも残酷で、そして逃れようのない運命が、ひどく痛いほど分かっていた。

