しゃべる人形

「今日、何見る?」
はるかが夕闇の中でそう言った。「何を見る」――それは、僕たちの間で共通言語になっている「夜9時、フジテレビ系のドラマ」の確認だ。
「うちはもちろん、あの『明日への手紙』が主題歌のドラマだよ。夜9時から」
杏奈が即座に答える。僕もすかさず、「ああ、同じだ。あれ、毎週欠かさず見てるんだよ」と頷いた。
「そうだそうだ! じゃあ、それを見るためにみんなで早く帰ろうよ」
誰かがそう言うと、みんな一斉に「そうだな」「よし、帰ろう」と口々に言い合い、満足げに公園を後にした。それぞれがバラバラの家路につき、同じ時刻にテレビの前に座る。離れていても、同じ物語を共有している。そんな単純な日課が、僕たちにとってはたまらなく愛おしかった。
頭が悪いとか、社会の枠組みから少し外れているとか、そんなことはどうでもいい。ただ「同じドラマを、同じ時間に見ている」という、それだけの共通点が、僕たちを強く繋いでいる。
画面の向こうで流れる同じ音楽、同じセリフ。それを共有できる相手がいるという事実。バラバラの家で一人、テレビの灯りに照らされながら、僕たちは見えない糸で結ばれていた。この「同じ」という感覚こそが、孤独な僕たちにとって、何よりも確かな救いだった。