しゃべる人形

正志と『サバカン』の彼女は、ロケが終わった後も、まるで昔からの恋人同士のように寄り添って座っていた。
僕たちはその後、フジテレビの片隅で、少し背伸びをして乾杯をした。もちろん、高校生の分際で酒を飲むなんて本来なら褒められたことじゃない。でも、今日という日の高揚感、まさしのあの強引で真っ直ぐな恋の成就、そして上松先生とあかりのお母さんの結婚という、奇跡のような一日を締めくくるには、この少しの逸脱さえも「桜田高校らしいドラマ」の一部のように思えた。
「いやあ、本当に最高の思い出になったな」
みんなで食事をしながら、誰かがそう呟くと、全員が大きく頷いた。
思えばこの高校は、どこへ行ってもドラマが生まれる場所だった。人が集まれば、そこに必ず誰かの恋が芽生え、誰かの傷が癒やされる。新型コロナウイルスの流行を経て、人と人が直接顔を合わせ、言葉を交わし、時にこうして触れ合うことの難しさと、だからこそ何よりも尊いのだということを、僕たちは身をもって学んできたのかもしれない。
「愛し合うこと、誰かとくっつくことって、本当に大事なことなんだな」
そんな当たり前で、でも一番大切なことに気づいた一日。
この物語を書こうと思った人の心には、きっと「分断された世界でも、人はこうして手を取り合えるんだ」という静かな希望があったんだろう。その想いを想像すると、胸の奥がじんわりと温かくなる。
フジテレビの夜景を背に、僕たちの今日という「第1部」が終わっていく。
明日からはまた、いつもの少し理不尽で、少し切ない日常が始まる。でも、僕たちの手には、今日みんなで歩いた道のりと、この温かい思い出がある。それだけで、きっと何があっても前を向いていけるような気がした。
「じゃあ、帰るか。明日からも、またみんなでドラマを作っていこうぜ」
正男の言葉に、みんなが笑いながら立ち上がる。夜風が少し冷たいけれど、みんなの手は、どこか熱を帯びているようだった。