しゃべる人形

日曜日、まだ夜明け前の薄暗い時間。僕たちは桜坂駅のホームに立っていた。
「やっと来た……」
5時1分、始発列車が静かにホームへ滑り込んできた。この電車を逃すと、あとは各駅停車ばかりで、途中で何度も乗り換えをしなければ東京までたどり着けない。
この直通列車が桜坂駅に停車するようになったのは、つい最近のことだ。地元の住民や利用者の切実な願いを、千葉県知事が汲み取ってくれて、JR側に何度も働きかけてくれた。そして何より、僕自身も「この駅には直通が必要です」と、JR東日本に何度も何度も直接意見を送り続けた。その執念がようやく実を結び、JR側も渋々ながらこの始発を止めてくれるようになったのだ。
「これ、本当にすごいことだよね」
ホームで並ぶみんなを見渡しながら、僕は感慨深かった。ただの移動手段じゃない。僕たちの生活を守り、あかりのお母さんと上松先生の門出にみんなで立ち会うための、希望を乗せた列車だ。
「さあ、みんな乗ろう。乗り遅れるなよ!」
秋夫である僕の合図で、みんなが一斉に車両へ飛び込む。ガラガラだった車内に僕たちの笑い声と熱気が広がる。窓の外にはまだ少し眠たそうな千葉の街並みが流れていくけれど、僕たちの心の中は、これから始まる結婚式への期待で満ち溢れていた。
千葉県知事への感謝と、自分の小さな声が届いたという小さな自信。その両方を胸に、5時1分の直通列車は軽快なリズムを刻んで、東京を目指して走り出した。