しゃべる人形

玄関のドアが開き、上松先生が帰宅した。母親は出迎えるなり、少し意地悪そうに言った。
「あら、遅いじゃない。またどこか変なところにでも寄り道してきたの? キャバクラなんて行っちゃってないでしょうね」
上松先生は少し顔を赤らめ、むきになって否定した。
「そんなわけないだろ。職員会議で遅くなったんだよ」
一通り軽口を叩いた後、上松先生はふと真面目な顔つきになり、リビングにいたあかりの方を見た。
「そういえば……実はあかりちゃんのことなんだけど、最近クラスのみんなとすごく上手くやっていてね。好きな人までできたみたいなんだよ。本当に楽しそうでさ」
「ええ、知ってるわ。さっき本人から聞いたところよ」
母親はそう言うと、あかりの好物であるハンバーグとポテト、サラダを食卓に並べた。三人で温かい食卓を囲む。
「お、聞いたよ。今日みんなでカラオケに行ったんだって?」
上松先生が問いかけると、あかりは嬉しそうに頷いた。
「はい。すっごく楽しかったです。秋夫くんもすごく親切にしてくれて……私、今までで一番楽しい時間でした」
夕食後、お風呂から上がったあかりは、ベッドに入っても秋夫くんのことが頭から離れなかった。心臓の音がうるさくて、なかなか寝付けない。結局、一睡もできないまま朝を迎え、鏡の中には目の下に濃い隈を作った自分の顔が映っていた。
「あら、あかり? その目、どうしたの?」
母親の問いかけに、あかりは恥ずかしさで口を閉ざすことしかできない。そんな様子を見て、上松先生は愉快そうに笑った。
「ははは、まあ、高校生にはいろいろあるんだよ。……じゃあ、俺は先に行ってるからな」
上松先生はそう言って、少し足早に学校へと向かっていった。