しゃべる人形

春香は僕の指先から滲む赤い血に気づくと、ハッとしたように表情を曇らせた。
「ああ、これ……。さっき私が噛んだからだよね。ごめん、薬をつけないと……」
春香が慌てて薬を探し始めたとき、僕は彼女の真っ直ぐな瞳を見つめて静かに言った。
「薬じゃなくて……そこを、舐めてくれないかな」
僕の言葉に、部屋の中にいたあかりたちが「ええっ、またなの?」と声を上げて笑い出した。あんなも呆れたような、でもどこか慈しむような眼差しで僕たちを見ている。
そこへ、看護婦のようにテキパキとした足取りでニコルが割って入った。
「ダメよ。そんなことをしたらバイ菌が入ってしまうわ」
ニコルは手慣れた手つきで薬を取り出すと、僕の指をしっかりと掴み、冷たい消毒液と薬を丁寧に塗り込んだ。ニコルのその手つきは優しかったけれど、僕の心はまだ収まらなかった。
「……薬は塗ったけど、やっぱり舐めてほしいな」
僕は薬を塗られた指の反対側、春香の歯が食い込んでヒリヒリと痛む場所を指さした。
「ここ、まだ痛いんだ。もう一度、お願い」
「もう、しつこいなあ!」
春香は毒づきながらも、どこか嬉しそうに、まるで宿っぽい振る舞いのような仕草で僕を見つめた。彼女の中に残る戸惑いや、僕の強引さに対する困惑が見えたけれど、僕は構わずに春香を強く抱きしめた。この場所から彼女を離したくなかった。
「お願いだよ、春香」
僕の腕の中で、春香は逃げ場を失い、観念したようにため息をついた。あかりも、ニコルも、そしてあんなも、僕たちのその歪なやり取りを温かく見守っている。
あかりの無邪気さ、春香の鋭い痛み、ニコルの献身、そしてあんなの深い受容。全員が僕の命の一部として、この部屋に溶け込んでいた。自分でも何がどうなっているのか、気が動転するほど分からない。ただ一つ確かなのは、この彼女たち全員を、どうしようもなく愛してしまっているということだ。僕は誰一人として手放すことができず、ただ彼女たちの匂いと存在感の中に沈み込んでいった。