しゃべる人形

あんなは温かいスープをよそいながら、ふと思い出したように言った。
「そういえば、春香のことも一緒に連れてきてほしいな。あの子もきっと、一人で抱え込んでいるものがあるはずよ」
僕の手が止まる。春香の境遇はあまりに痛ましいものだった。事故で母親を亡くし、その裏には、彼女を騙していた恋人の存在があった。あのおぞましい男が、間接的とはいえ、春香から最も大切な存在を奪ったのだ。
「春香を……僕たちの輪に?」
「ええ。そうすれば秋生君の寂しさも癒えるし、春香の傷も少しずつ和らぐかもしれない。私だって、みんなで賑やかに食卓を囲めるほうがずっと楽しいわ」
あんなは、僕が密かに集めてきた「残されたもの」への執着さえも、前向きな力に変えようとしていた。
「それに、秋生君がいつものように『私が食べて残したもの』を欲しがるなら、それを春香が用意してあげればいい。秋生君が喜ぶ姿を見れば、春香だって自分が誰かに必要とされているんだって実感できるでしょう?」
あんなの提案は、僕にとって救いであると同時に、驚くほど合理的な慈悲だった。僕の歪な欲求を「誰かの癒やし」という形に変換し、春香という孤独な魂をこの「女子会」という名の聖域へ迎え入れる。
「みんなで同じ釜の飯を食う。それが、一番の薬になるはずよ」
あんなの言葉に、あかりとニコルが頷く。食卓の風景が、より深く、より複雑に広がっていく。春香の影を背負った重たい記憶さえも、あんなの作るこの食卓の上では、明日へ向かうための糧に変わろうとしていた。
僕は深く深く、頷いた。春香をこの場所に招くこと。それは、僕がこれまで守り続けてきた「過去の箱」を、未来へ向かって開くという決意でもあった。窓の外では相変わらず雨が降っているけれど、この部屋の中は、あんなの穏やかな声と、これから加わるであろう春香の気配で、静かに、しかし確実に満たされていた。