しゃべる人形

深夜、寝静まった部屋に突然スマートフォンの着信音が鳴り響いた。画面には正夫の名前。
「おい、秋夫。まだ起きてるか? これから飲みに行こうぜ」
正夫の声は弾んでいた。俺は一瞬戸惑い、苦笑しながら答えた。
「おいおい、俺らまだ高校生だぞ。何言ってんだよ」
しかし正夫は意に介さず、強引に言葉を重ねた。
「いいよいいよ、今日は俺たちが付き合った……いや、この腐れ縁が始まった記念日だしよ。それに、上松先生とあかりの母親が結婚したっていうダブル記念日だ。二人でどんちゃん騒ぎしようぜ。近くの居酒屋、俺の顔でどうにでもなるからよ。今から迎えに行くから待ってろ」
有無を言わせぬ勢いで電話が切れた。断る理由も特になかった。俺は制服を脱ぎ捨て、適当な服に着替えて家を出た。約束通り、正夫はすぐに車で迎えに来た。
たどり着いたのは、寂れた街の雑居ビルにある居酒屋だった。煙の充満する店内に足を踏み入れた瞬間、俺たちは目を見開いた。カウンターの隅で、一人で杯を傾けている男がいた。上松だった。
「……お、お前ら、こんなところで何やってんだよ」
上松は驚いたようにグラスを置き、眉間に皺を寄せて声を荒らげた。
「高校生だろ。飲んじゃダメだぞ、そんなことしちゃ」
説教じみたその言葉に、正夫はあからさまな嘲笑を浮かべた。
「いやいや、先生だって立派な変態じゃないですか。俺らも、あんたの弟子みたいなもんでしょ?」
一瞬の沈黙。上松は驚いた顔をした後、不敵な笑みを深めた。
「……ああ、そうだよ。その通りだ」
上松が開き直ったように笑ったことで、店内の空気が一変した。俺たちはそのままカウンターに並び、高校生という立場を忘れて、夜の闇へと飛び込んだ。