しゃべる人形

あんなの言葉は鋭利な刃のようでありながら、その根底には底知れぬ慈悲があった。僕は堪えきれなくなり、あんなの膝に顔を埋めて、子供のように泣きじゃくった。
「捨てろなんて言わない。やりたければ、やればいい。それは私のカウンセラーとしての一般論であり、ただの友達としての忠告に過ぎないから」
あんなは淡々と、しかし突き放すこともなくそう告げた。彼女にとって僕は、救うべき対象であり、同時に理解しがたい衝動を抱えた一人の人間だった。
僕は震える手で、再びあんなの口元へと指を伸ばした。その渇望は、まだ抑えられなかった。あんなは抵抗することなく、ただ静かに口を開けて僕を受け入れた。僕の指が彼女の唇に触れ、かつての記憶の欠片をすくい取る。僕はそれを、祈るような気持ちで自分のものにした。
しかし、あんなは僕がそれを取り出した直後、持っていた容器をすべて、僕の目の前で元の場所へと戻してしまった。僕が積み上げてきた「親切の標本」たちが、部屋の棚へ、あるいは彼女の意志によって静かに帰っていく。
「いいんだよ、それで。もし君がそれを汚いと思わないなら、汚くない。私が否定もしないし、肯定もしない。君の感じている世界は、君だけのものだから」
あんなは、僕が取り出したその「欠片」を、あえて自分の顔にそっと塗りつけた。あんなの整った顔立ちに、僕が求めたはずの「親切」の跡が残る。それは傍から見れば歪で、汚れているように見えるかもしれない。けれど、あんなは全く動じなかった。彼女は、僕の執着さえもその身に受け入れ、すべてを包み込もうとしていた。
僕たちは沈黙したまま、ただそこにいた。あかりも、ニコルも、そしてあんなも。部屋の外では雨が降り続いている。あんなの顔についたその跡を見つめながら、僕は自分がこれまで何を守りたかったのか、それが本当に「標本」だったのか、それとも「誰かと繋がるための呪文」だったのかが、分からなくなりそうだった。あんなは、肯定も否定もしないまま、ただ僕という存在のすべてを、その真っ白な指先で肯定していた。