しゃべる人形

あんなを僕の家に招き入れたのは、これが初めてのことだった。いつもは病院という無機質で守られた場所でしか話さなかった彼女を、僕の生活の核であるこの部屋に入れること。それは、聖域に他人が踏み込む恐怖と、誰かに僕のすべてを見せられる安堵が入り混じる、震えるような決断だった。
「お邪魔するね、秋生君。……ここが、君の居場所なんだね」
あんなはリビングに飾られた無数の容器たちを静かに見回した。その瞳には、かつて虫たちを観察していた時のような、純粋な好奇心と深い洞察が宿っている。
「あんな、驚かないのかい? 普通の人は、これを見るとみんな『気持ち悪い』って言うんだ」
僕が怯えるように聞くと、あんなはソファの隣へ腰を下ろした。
「どうして? これは君が、誰かを想い、自分を繋ぎ止めるために積み重ねてきた大切な時間でしょう。私には、君がどれほど不器用で、どれほど優しさに飢えていたかが、この容器たちから痛いほど伝わってくるよ」
あんなの言葉は、まるで魔法のように僕の肩の力を抜いていく。生身の人間であるあんなが僕の部屋に座っているだけで、あかりやニコルの声色が、どこか現実の重みを帯びて聞こえる気がした。
「さあ、秋生君。今日はカウンセリングじゃない。ただの友達として、君の集めてきた『物語』を一つ聞かせてくれない? この人形たちが、君に一番話したがっている言葉を」
あんなはあかりの隣で、穏やかな眼差しを僕に向けた。僕は深く息を吸い込み、初めて「あんな」という友人に向けた自分自身の声で、物語を紡ぎ始めた。