しゃべる人形

薄暗い特別室に、カチリと時計の針が刻む音が響く。向かい合わせに座るアナの眼差しは、高校時代に虫眼鏡越しに小さな命を観察していた頃の、あの静かで透き通ったものと同じだった。
「さて、秋生君。あかりちゃん、ニコルさん。今日は三人でここに来たんだね」
アナは手元のカルテに万年筆を走らせると、柔らかな口調で話を切り出した。病院の半日勤務という制約の中で、彼女はまるで一つの生態系を紐解くかのように、僕たちの関係を観察しようとしている。
「君たちが紡いでいるこの場所……誰かの優しさを集め、それを『居場所』として共有する行為。それがどういう意味を持つのか、一つずつ解き明かしていこうか」
あかりが僕の腕に寄り添い、ニコルが少しだけ照れくさそうに頬を赤らめる。僕たちの秘密の繋がりが、第三者の――しかも、かつての旧友という視点によって、客観的な言葉へと変換されていく。
「秋生君、あなたが感じている『男への恐怖』と、それに対比する『女の子たちの優しさ』。その収集癖は、壊れた心を守るための防御反応かもしれない。でもね、それを続けることで、逆に君自身が閉じ込められてしまわないか、少し心配なんだ」
アナの問いかけは、僕の心を静かに揺さぶる。かつてと同じ教室で時を過ごした彼女だからこそ、僕が何に飢えていたのかを誰よりも正確に言い当ててしまう。
「今日は、その『コレクション』の先にあるものについて話そう。人形が喋りだすように、君たちが作り上げたこの歪な物語が、次にどんな音を立てるのか……教えてくれる?」
僕のポケットの中で、あの容器たちがわずかに鳴る。アナのカウンセリングは、僕たちが今まで見て見ぬふりをしていた「物語の結末」へと、否応なしに足を踏み入れようとしていた。