しゃべる人形

意識を失った僕の胸元に、あかりは耳を当て、次にナース室の勝手を知り尽くした手つきで周囲を見回した。
「秋生君、大丈夫かな……」
あかりは手際よくモニターや心電図のセンサーを僕の身体に貼り付けていく。警告音のような電子音が静かなナース室に響く。あかりは慣れた手つきで波形を読み取り、数値を確認した。
「……意識レベルは少し低下してるけど、心拍も呼吸も正常。秋生君、また無理しちゃったんだから」
あかりは小さく息を吐き、安堵の表情を浮かべた。しばらくして、僕の意識がゆっくりと浮上してきた。視界がぼやけている。意識が戻ったとき、僕の頭はニコルの膝の上に預けられていた。
僕の中に、何かが弾けた。僕はそのまま、子供のように声を上げて泣き出した。
「お姉さんが……お姉さんがいない……」
僕の呟きは、自分の居場所を必死に探す迷子の叫びだった。
「あかりと付き合えて嬉しいのに……でも、ニコルさんのことも、もっと知りたいんだ。お願い、お姉さんになってくれない?」
ニコルは困惑し、眉を寄せて僕を見つめた。
「そんなの、無理よ。私は結婚しているし、看護師として患者さんとそういう関係になるなんて……」
彼女は戸惑い、僕の頭を優しく撫でながらも、拒絶の言葉を並べた。けれど、僕の熱い涙に触れ、彼女の瞳からは次第に拒絶の固さが消えていった。彼女は溜息をつき、諦めたように微笑んだ。
「……もう、いいわよ。しょうがないわね」
その言葉は、僕にとってどんな薬よりも効いた。
その日を境に、僕はあかりの通院日ではない日にも、彼女の病院へ通うようになった。ナース室のあの特別室が、僕のもう一つの居場所になった。あかりも僕も、ニコルという新しい「姉」のような存在に守られ、この病院の一角で、歪だけれど温かい、僕たちだけの時間を積み重ねていった。