しゃべる人形

おばさんが去った後、さっきまであかりの歌声が響いていた公園が、急に静まり返った。あかりの顔から先ほどまでの柔らかな表情が消え、ひどく悲しそうな影が差していた。
「……あかり、どうしたの?」
僕の問いかけに、あかりはブランコの鎖をぎゅっと握りしめたまま、ポツリポツリと話し始めた。それは、聞いているだけでも胸が締め付けられるような、中学時代の記憶だった。
誰にも言えなかった、あの日々のこと。執拗な嫌がらせ、追い詰められた心、そして、もうどうにでもなればいいと思って繰り返した、自殺未遂の記憶。あかりの傷ついた心の奥底にある、暗くて深い海のような記憶が、おばさんの優しい言葉がきっかけで溢れ出してしまったようだった。
僕は立ち上がり、あかりの前に立った。彼女の細い肩が震えている。
「……あかり。もう、あの頃は終わったんだ」
僕は彼女の目を見て、できるだけ力強く言った。
「ここは桜坂だ。ここには、あかりをいじめるような奴は誰もいない。僕がいるし、正夫も正も、ハルカだっている。みんな、あかりが大好きだよ。だから、もう自分を傷つける必要なんてないんだ」
あかりはゆっくりと顔を上げ、僕の瞳を見つめた。その目から一筋の涙がこぼれ落ちたけれど、彼女の表情は少しずつ緩んでいった。僕の言葉が、あかりの心に少しずつ届いているのがわかった。
「……うん。そうだね、秋夫くん。私、もう大丈夫」
あかりが涙を拭いて、小さく微笑んだ。その笑顔を見て、僕の胸の中の重い石も消えていくようだった。
夕暮れの空が茜色から深い藍色へと変わっていく。ブランコを降りた僕たちは、並んで家路についた。家へと続く道のりを、さっきよりもずっと近い距離で歩く。桜の木陰を抜け、あかりの家の玄関先まで見送った。僕たち二人にとって、今日は忘れられない一日になった。