あかりは悪戯っぽく笑いながら、自分の口の中にあった半分に割れたチョコを、指先で取り出した。湿り気を帯びたそれは、あかりの体温と、あかりそのものの味がする。
「秋生君、これが一番欲しかったんでしょ。……これこそが、あなたにとっての『居場所』なんでしょう?」
あかりは躊躇なく、その欠片を僕の唇へと運んだ。僕はそれを受け取る。ただの食べ物ではない、彼女という存在を咀嚼するような儀式。遥は横で「あーもう、やだ……」と顔を覆いながらも、どこか諦めたような溜息をついた。
その瞬間、遥の脳裏に、あかりよりもさらに古い記憶の断片がフラッシュバックした。
「……待って。そういえば、あかりちゃんと出会う前にもあったよね」
遥は遠い目をして、当時の光景を語り始めた。
「あの時、私、電車の中で急に気分が悪くなってうずくまってたの。高校への道順を教えてくれた直後だったよね。普通なら、駅員さんを呼ぶか、適当に介抱して帰るのが当たり前なのに……秋生君、やり方が異常だった」
遥の言葉に、あかりが「えっ、私の前にもそんなことしてたの?」と目を丸くする。遥は当時の困惑をありありと思い出していた。
「具合の悪い私に寄り添って、吐瀉物をビニール袋にまとめさせたよね。ゴミ箱なんてすぐそこにあったのに、あなたはそれを捨てないで……まるで宝石でも持ち帰るみたいに、大事そうにバッグに仕舞い込んだ。あの時、『この人、何かが決定的に壊れてる』って思ったの」
あかりと遥、二人の女性の過去が、僕という歪な共通項を通じて交差する。あかりは自分の分だけでなく、遥のその記憶までもが「秋生の収集物」として家にあることを悟り、複雑な表情を浮かべた。
「……秋生君、本当に変だよ。普通じゃない。でもね」
あかりは僕の肩に寄りかかり、遥もまた、呆れを通り越したような苦笑を浮かべて、僕の隣に身を寄せた。
「そんな歪な居場所を一生懸命守ろうとするあなたが、どうしようもなく愛おしいのね。……しょうがないや。私たちが、その変なコレクションの一部になってあげるしかないみたい」
あかりと遥、そして僕。
社会の正常なレールからは大きく脱線した、出口のない部屋。しかし、彼女たちがそう言って笑ってくれる限り、この部屋の中だけは、どんな場所よりも温かい「居場所」として完成していた。
僕の掌の中の小さなボトルには、また新しい記憶と温度が加わろうとしていた。</code>
「秋生君、これが一番欲しかったんでしょ。……これこそが、あなたにとっての『居場所』なんでしょう?」
あかりは躊躇なく、その欠片を僕の唇へと運んだ。僕はそれを受け取る。ただの食べ物ではない、彼女という存在を咀嚼するような儀式。遥は横で「あーもう、やだ……」と顔を覆いながらも、どこか諦めたような溜息をついた。
その瞬間、遥の脳裏に、あかりよりもさらに古い記憶の断片がフラッシュバックした。
「……待って。そういえば、あかりちゃんと出会う前にもあったよね」
遥は遠い目をして、当時の光景を語り始めた。
「あの時、私、電車の中で急に気分が悪くなってうずくまってたの。高校への道順を教えてくれた直後だったよね。普通なら、駅員さんを呼ぶか、適当に介抱して帰るのが当たり前なのに……秋生君、やり方が異常だった」
遥の言葉に、あかりが「えっ、私の前にもそんなことしてたの?」と目を丸くする。遥は当時の困惑をありありと思い出していた。
「具合の悪い私に寄り添って、吐瀉物をビニール袋にまとめさせたよね。ゴミ箱なんてすぐそこにあったのに、あなたはそれを捨てないで……まるで宝石でも持ち帰るみたいに、大事そうにバッグに仕舞い込んだ。あの時、『この人、何かが決定的に壊れてる』って思ったの」
あかりと遥、二人の女性の過去が、僕という歪な共通項を通じて交差する。あかりは自分の分だけでなく、遥のその記憶までもが「秋生の収集物」として家にあることを悟り、複雑な表情を浮かべた。
「……秋生君、本当に変だよ。普通じゃない。でもね」
あかりは僕の肩に寄りかかり、遥もまた、呆れを通り越したような苦笑を浮かべて、僕の隣に身を寄せた。
「そんな歪な居場所を一生懸命守ろうとするあなたが、どうしようもなく愛おしいのね。……しょうがないや。私たちが、その変なコレクションの一部になってあげるしかないみたい」
あかりと遥、そして僕。
社会の正常なレールからは大きく脱線した、出口のない部屋。しかし、彼女たちがそう言って笑ってくれる限り、この部屋の中だけは、どんな場所よりも温かい「居場所」として完成していた。
僕の掌の中の小さなボトルには、また新しい記憶と温度が加わろうとしていた。</code>

