部屋の空気が、あかりの追憶によって急激に温度を変えた。あかりは遠くを見つめるような瞳で、ぼんやりと微笑んだ。
「ねえ、覚えてる? 秋生くん。私たちが最初に出会った日のこと」
遥が手元にあるボトルの列から視線を上げ、あかりの顔を覗き込む。あかりは遥に語りかけるように、でも秋生に問いかけるように言葉を紡いだ。
「高校に入る前だった。……秋生くんの紹介でその高校に行くことになったって、正男に言われたの。でも、本当は違ったんだよね。正男は私に、『一番前の車両に乗れ。そこに必ず秋生がいるから』って言ったの。だから、私は疑いもせず、一番前のドアであなたを待っていた」
電車の揺れ、混み合う車内、そして高校という未知の場所への不安。あかりが初めて僕に声をかけた時、僕は迷わず彼女の肩を叩いたのだ。「同じ学校だから、一緒に行こう」と。
「あなたが、私をどこかへ連れて行ってくれるって信じていた。……あの時、あなたが言ったよね。『あかりちゃん、それ、ちょっとほしいんだけど』って。何が何だかわからなかった。私はただ、怖くて、必死で……口を開けて、訳も分からず叫び声をあげた」
その時の記憶が、あかりの脳内で再生されているのだろう。当時の彼女は今よりもずっと知的障がいが重く、感覚の処理が追いつかないほどパニックを起こしていた。
「ぎゃーって、大声を出したでしょう? 私、どうしていいか分からなくて、あなたの服を私の体液でぐしゃぐしゃに汚しちゃった。……あれが、私と秋生くんの始まりだったんだよね」
その告白に、静まり返っていた部屋で遥が息を呑む音がした。遥の顔には、驚きと、それ以上の深い困惑が浮かんでいる。今まで「ただの紹介」だと思っていた二人の出会いが、実は最初からそんな歪で、激しく、獣じみた接触から始まっていたなんて。
「……信じられない」
遥が小さく呟く。その言葉には、秋生に対する非難と、あかりが抱えてきた「居場所」という執着の深さに対する戦慄が混じっていた。
あかりは、自分の汚れた過去さえも、今は愛おしい宝物のように語る。ボトルの中の液体が、その最初の日の衝撃と、あの時の僕の渇望を証明しているかのように、薄暗い部屋の中で鈍く光っていた。
「ねえ、覚えてる? 秋生くん。私たちが最初に出会った日のこと」
遥が手元にあるボトルの列から視線を上げ、あかりの顔を覗き込む。あかりは遥に語りかけるように、でも秋生に問いかけるように言葉を紡いだ。
「高校に入る前だった。……秋生くんの紹介でその高校に行くことになったって、正男に言われたの。でも、本当は違ったんだよね。正男は私に、『一番前の車両に乗れ。そこに必ず秋生がいるから』って言ったの。だから、私は疑いもせず、一番前のドアであなたを待っていた」
電車の揺れ、混み合う車内、そして高校という未知の場所への不安。あかりが初めて僕に声をかけた時、僕は迷わず彼女の肩を叩いたのだ。「同じ学校だから、一緒に行こう」と。
「あなたが、私をどこかへ連れて行ってくれるって信じていた。……あの時、あなたが言ったよね。『あかりちゃん、それ、ちょっとほしいんだけど』って。何が何だかわからなかった。私はただ、怖くて、必死で……口を開けて、訳も分からず叫び声をあげた」
その時の記憶が、あかりの脳内で再生されているのだろう。当時の彼女は今よりもずっと知的障がいが重く、感覚の処理が追いつかないほどパニックを起こしていた。
「ぎゃーって、大声を出したでしょう? 私、どうしていいか分からなくて、あなたの服を私の体液でぐしゃぐしゃに汚しちゃった。……あれが、私と秋生くんの始まりだったんだよね」
その告白に、静まり返っていた部屋で遥が息を呑む音がした。遥の顔には、驚きと、それ以上の深い困惑が浮かんでいる。今まで「ただの紹介」だと思っていた二人の出会いが、実は最初からそんな歪で、激しく、獣じみた接触から始まっていたなんて。
「……信じられない」
遥が小さく呟く。その言葉には、秋生に対する非難と、あかりが抱えてきた「居場所」という執着の深さに対する戦慄が混じっていた。
あかりは、自分の汚れた過去さえも、今は愛おしい宝物のように語る。ボトルの中の液体が、その最初の日の衝撃と、あの時の僕の渇望を証明しているかのように、薄暗い部屋の中で鈍く光っていた。

