あかりは静かに目を閉じ、遥の方を向いて柔らかな笑みを浮かべた。
「遥ちゃんには、帰る場所がないよね。でも、私の家にいる。だから、今はここに居場所があるんだよ」
遥は何も言わなかったけれど、あかりの肩をそっと抱き寄せた。交通事故で母を失い、父ももういない。血のつながった家族という器は壊れてしまったけれど、こうしてあかりと共に過ごす時間の密度が、何よりも確かな「家」になっていた。
あかりはそこで、ふと意地悪な、けれどどこか楽しげな瞳で僕を射抜いた。
「ねえ、秋生君。……秋生君の居場所はどこにあるの?」
僕が言葉に詰まると、あかりは「ふふっ」と笑いながら、隣にいた遥に目配せをした。それは、僕がさっきまで薬局で何をしていたかを、全て分かっているという合図だった。
遥は呆れたような、でも少しだけ羨ましそうに僕を見て、逃げ道を塞ぐように言った。
「私、見てたんだから。さっき、あかりちゃんの中学時代の友達に会ったよね。……また、やったんでしょ?」
僕がポケットから取り出したのは、小さな容器がいくつか並んだコレクションだった。あかりの口元から、遥の優しさ、そして先ほどしおりから分けてもらったもの。水筒のような小さなボトルには、持ち主の名前が丁寧に書かれている。
あかりは僕の手からボトルを取り上げると、それを掲げて見せた。
「見て、遥ちゃん。秋生君の癖だよ。親切な女の子に触れて、こうして少しずつ分けてもらうの。……これ、今日のしおりちゃんの分」
中に入っているわずかな液体が、室内の光を受けて揺れている。遥はそれを見て、信じられないものを見るような表情で、ゆっくりと息を呑んだ。
「え……またやったの? 信じられない……」
遥の声には驚きと、それ以上に、僕という人間の「どうしようもなさ」に対する困惑が混じっていた。けれど、あかりは全く動じていない。むしろ、その異常なコレクションを、まるで宝石でも扱うように愛おしそうに眺めている。
部屋の中は、沈黙と、僕が持ち込んだ「誰かの温もりの欠片」が発する奇妙な熱気に包まれた。
「秋生君はね、こうして色んな人の居場所を自分のポケットに入れて持ち歩くの。変な人だけど……これが、今の秋生君の居場所なんだよ」
あかりの言葉に、遥はボトルの中身を凝視したまま動けなくなった。そこには、ただの唾液などではない、彼女たちが生きてきた証のような、あまりにも個人的で、歪で、そしてあまりにも純粋な繋がりが、液体となって沈んでいたからだ。
「遥ちゃんには、帰る場所がないよね。でも、私の家にいる。だから、今はここに居場所があるんだよ」
遥は何も言わなかったけれど、あかりの肩をそっと抱き寄せた。交通事故で母を失い、父ももういない。血のつながった家族という器は壊れてしまったけれど、こうしてあかりと共に過ごす時間の密度が、何よりも確かな「家」になっていた。
あかりはそこで、ふと意地悪な、けれどどこか楽しげな瞳で僕を射抜いた。
「ねえ、秋生君。……秋生君の居場所はどこにあるの?」
僕が言葉に詰まると、あかりは「ふふっ」と笑いながら、隣にいた遥に目配せをした。それは、僕がさっきまで薬局で何をしていたかを、全て分かっているという合図だった。
遥は呆れたような、でも少しだけ羨ましそうに僕を見て、逃げ道を塞ぐように言った。
「私、見てたんだから。さっき、あかりちゃんの中学時代の友達に会ったよね。……また、やったんでしょ?」
僕がポケットから取り出したのは、小さな容器がいくつか並んだコレクションだった。あかりの口元から、遥の優しさ、そして先ほどしおりから分けてもらったもの。水筒のような小さなボトルには、持ち主の名前が丁寧に書かれている。
あかりは僕の手からボトルを取り上げると、それを掲げて見せた。
「見て、遥ちゃん。秋生君の癖だよ。親切な女の子に触れて、こうして少しずつ分けてもらうの。……これ、今日のしおりちゃんの分」
中に入っているわずかな液体が、室内の光を受けて揺れている。遥はそれを見て、信じられないものを見るような表情で、ゆっくりと息を呑んだ。
「え……またやったの? 信じられない……」
遥の声には驚きと、それ以上に、僕という人間の「どうしようもなさ」に対する困惑が混じっていた。けれど、あかりは全く動じていない。むしろ、その異常なコレクションを、まるで宝石でも扱うように愛おしそうに眺めている。
部屋の中は、沈黙と、僕が持ち込んだ「誰かの温もりの欠片」が発する奇妙な熱気に包まれた。
「秋生君はね、こうして色んな人の居場所を自分のポケットに入れて持ち歩くの。変な人だけど……これが、今の秋生君の居場所なんだよ」
あかりの言葉に、遥はボトルの中身を凝視したまま動けなくなった。そこには、ただの唾液などではない、彼女たちが生きてきた証のような、あまりにも個人的で、歪で、そしてあまりにも純粋な繋がりが、液体となって沈んでいたからだ。

