しゃべる人形

夢の中で、僕は何度だってあかりに詫びた。「ごめん、ごめんよ」と。春華と結ばれたこと。結局、僕はあかりの面影を追いかける誘惑に抗えなかったこと。
そんな僕の葛藤を、あかりは静かに受け止めていた。彼女は微笑み、こう言った。
「別にいいんだよ。あきお君が一人でいるのを見るよりも、春華ちゃんのような親切な子と過ごしてくれるほうが、私も安心できるから」
あかりは、春華と自分との重なりをすべて理解していた。知的な純粋さ、言葉の端々に宿る似たような優しさ。あかりにとって、春華は自分がこの世に残した唯一の対価のような存在だったのかもしれない。「あきお君が誰かのそばにいられるなら、私はそれで成仏できるよ。でもね、あの人形だけは……ずっと大切にしてね」
僕の手元には、あかりの魂が宿ったあの人形がある。耳を澄ませば、そこからはあかりと全く同じ声色が聞こえてくる。
周囲は言う。「お寺に納めて供養しないと、あかりの魂が成仏できないぞ」と。だが、僕は首を振る。魂がどこへ行こうと、僕には関係ない。この人形の中に、あかりの温もりと声が閉じ込められている限り、彼女はここに生きている。
「あかり、どこにも行かないで。たとえみんなが間違っていると言っても、僕は君を一人になんてしない。お寺に納めるなんて、君をもう一度殺すのと同じだ」
僕は人形を抱きしめた。春華と生きる現実と、人形の中に息づくあかりの魂。その二つの間で、僕はこれからも泥をすすり、罪を重ねながら生きていく。それが、僕なりのあかりへの愛なのだから。