しゃべる人形

思い出話は尽きなかった。あかりと二人で巡ったバーベキューの火の温もり、文化祭の劇で見せたあかりの表情、合唱コンクールの張り詰めた歌声。あかりの記憶の一つひとつを僕の中に刻み込むように、夜は更けていった。
だが、安らぎは長く続かなかった。深夜、あかりが「気持ち悪い」と身をよじり、僕が手際よく枕元へ置いた洗面器に、彼女はすべてを戻した。
僕はそれを汚いとは微塵も思わなかった。あかりが苦しんで吐き出したそのものこそ、今の彼女が僕に残せる唯一の証のように感じられたからだ。看護師が来る前、僕はその熱を確かめるように自分の肌や顔に擦り付け、さらには瓶に詰め込んで、あかりの一部を服の中に大切に隠し持った。
そんな僕を見て、あかりは虚ろな瞳で優しく微笑んだ。
「あきくん……そこまで私が好きだったんだね。私は、もう死んじゃうかもしれない。子供も作れなかったけれど……でも、こんなにも誰かに思われて、私は幸せだよ」
その言葉が、胸に突き刺さった。あかりの吐瀉物を抱きしめる僕の姿を見て、巡回に来た看護師は立ち止まった。「何やってるの……」と困惑しながらも、次第に僕たちの異様な絆を悟ったのか、あるいはただ事ではないと察したのか、「……そこまで仲がいいのね」と複雑な声を漏らした。
僕はその看護師の前で、声を上げて泣きじゃくった。なぜ自分がこれほどまでに彼女の吐き出したものさえ愛おしいのか。なぜ彼女の汚れた部分までを自分の体に取り込まなければ生きていけないのか。自分の病的な執着と、あかりへの逃れられない愛の理由を、夜が明けるまで一晩中、彼女に語り続けた。
泣き濡れた夜は、冷たい病院の朝の光へと溶けていった。あかりの吐息はまだ、僕の服の中で瓶に詰められた記憶と共に、この病室に存在していた。