しゃべる人形

あかりの病室に、次々と人が集まってきた。正夫、アンナ、そして福本莉子、上松、佐藤先生……彼らの顔ぶれが揃うたびに、あかりの回復を願う空気と、僕が積み上げてきた二人だけの閉じた世界との間に軋みが生まれる。
「……もう、帰ってくれ」
僕の言葉は冷酷だったかもしれない。正夫やアンナたちの心配そうな眼差しも、上松の複雑な表情も、佐藤先生の重苦しい空気も、今はすべてがノイズにしか聞こえない。あかりの傍らに誰かがいることが、彼女の体温を奪い、僕たちの共有する空間を薄めていくようで耐えられなかった。
「あかりと、二人だけになりたいんだ」
僕の切実で、わがままな願いに、彼らは一瞬沈黙した。戸惑い、あるいは呆れのような空気のなかで、僕はあかりの小さな手を握り直す。僕たちの時間は、今この病室のベッドの上でしか完結しない。彼らにとっては過剰な独占欲だろうが、僕にはこれ以外に、あかりを繋ぎ止める術がなかった。
やがて、彼らはため息をつきながら、踵を返して出て行った。病室に再び、静寂が訪れる。心拍モニターの規則的な音だけが、彼女が今、僕の隣で生きていることを告げている。ようやく手に入れた、誰にも邪魔されない二人だけの世界。僕はあかりの顔を覗き込み、その吐息が途絶えないように、ただ寄り添い続けた。