しゃべる人形

翌日、朝の静寂を切り裂くように春華から連絡が入った。あかりの具合が悪いという。吐いているらしい。学校に行く前、僕はいてもたってもいられず、あかりの家へと駆け出した。その時はまだ、ただの生理的な不調であってくれと願っていた。
あかりの部屋へ踏み込むと、トイレから苦しげな音が漏れていた。扉を開けた先にいたのは、項垂れるあかりの姿だった。そこにある光景――あかりが吐き出したもの――を見た瞬間、僕の中で何かが弾けた。
それは汚物などではなかった。あかりの一部であり、あかりが僕のために吐き出したものだとさえ思えた。僕は衝動を抑えられず、その場に跪いて彼女の吐瀉物を自分の肌に擦り付けた。あかりの熱と、あかりの体から分離したばかりの匂いに包まれることで、ようやく彼女と繋がっている実感が湧く。
「あかり、大丈夫か……」
震える声で呼びかけた時、背後で気配がした。春華と、あかりの母親だった。僕の異常な行動を目の当たりにした二人は、驚きを通り越し、深い軽蔑と呆れを混在させた眼差しを向けていた。
「また、そんなことしてるの……」
母親の冷ややかな声。春華の凍りついた表情。だが、僕は止まらなかった。
「あかりが好きなんです。あかりがいないと僕はダメなんです。あかりの一部ですら、僕にはなくてはならないものなんです」
狂気と言われても構わない。あかりの匂いと体温を感じていれば、この世界がどうなろうとどうでもよかった。あかりの母親も春華も、僕の底なしの執着を前にして、言葉を失い、ただ呆れ果てていた。僕とあかりの繋がりは、常識や倫理が入り込める場所など、もうどこにも残されていなかった。