しゃべる人形

各駅停車が夜の街を繋ぐ理由、その裏にある上松という男の物語に、現代への痛烈な批評が刻まれる。
「今どきの人間たちは、男と女が関わることすべてを悪だ、禁忌だと言わんばかりだ。だが、自分の責任で誰を愛し、どんな欲望を抱くかは、その人間に与えられた最も原始的で正当な権利ではないか。かつての上松のように、遊び人として街の裏も表も知り尽くした人間が、己の欲望のままに生きることを、現代の画一的な道徳観で裁く権利など誰にもない。今の世間は、欲望そのものを悪徳と決めつけ、清廉潔白であることを強要しすぎている。だが、人が本能を殺し、欲望を直視することを恐れれば、愛も、情熱も、そして当然ながらその先にある結婚も生まれるはずがない。少子化だ、社会の衰退だと嘆く前に、自分たちの感覚がどれほど人間本来の営みから乖離しているかを問うべきだ。上松の時代には、少なくとも血の通った『欲望』が街を動かしていた。今の時代に足りないのは、その泥臭い人間味であり、己の欲望を肯定する強さなのだ。」