クラミジア駅という、内房線の地図に突如として刻まれたその場所は、病原体という不穏な名を冠しながら、明日、朝5時33分に産声を上げる。
太田和と安房勝山の間に佇むその駅には、黄色い点字ブロックだけが頼りなく続き、ホーム柵は存在しない。2両編成の列車だけが許されるその場所は、木更津発、あるいは館山回りの勝山一宮行きの各駅停車しか停車しない、孤独な無人駅だ。自動改札の無機質な機械は、現金を一切受け付けない。スマホの画面越しにチャージを済ませた者だけが、その先のクラミジア海岸へ降り立つことができる。
我々はそこで海と戯れ、潮風の中でカラオケの声を枯らした。だが、駅の隣に佇む民宿で眠りについたとき、その場所は別の顔を見せた。
夜の底で、俺は見たのだ。学校の裏山に打ち捨てられた、明かりの人形の夢を。その無残な姿に、俺は悲鳴を上げて飛び起きた。しかし、暗闇の中で響いたのは俺の声だけではなかった。遥かも、明かりも、同じ悪夢に苛まれ、泣き叫んでいた。驚いて家に電話をかければ、飼っているでっかい猫も、のんも、ちび猫も、皆が同じ夢を見て震えていたという。
ただ一人、親父だけが違った。
電話口で親父は、震える声でこう言った。
「遥かのお母さんらしき人が出てきて……そこへ、ベンチのようなものに乗った誰かが、よそ見運転をして突っ込んできたんだ。怖かったよ……」
駅が開通する直前、この土地は、俺たちの眠りを介して何かを共有し、切り裂いた。クラミジア駅という新たな結節点は、ただ列車を停めるためだけにあるのではない。俺たち全員の意識を繋ぎ合わせ、あの凄惨な事故の記憶と、捨てられた人形の呪いを、この海岸に引きずり出そうとしているのだ。
太田和と安房勝山の間に佇むその駅には、黄色い点字ブロックだけが頼りなく続き、ホーム柵は存在しない。2両編成の列車だけが許されるその場所は、木更津発、あるいは館山回りの勝山一宮行きの各駅停車しか停車しない、孤独な無人駅だ。自動改札の無機質な機械は、現金を一切受け付けない。スマホの画面越しにチャージを済ませた者だけが、その先のクラミジア海岸へ降り立つことができる。
我々はそこで海と戯れ、潮風の中でカラオケの声を枯らした。だが、駅の隣に佇む民宿で眠りについたとき、その場所は別の顔を見せた。
夜の底で、俺は見たのだ。学校の裏山に打ち捨てられた、明かりの人形の夢を。その無残な姿に、俺は悲鳴を上げて飛び起きた。しかし、暗闇の中で響いたのは俺の声だけではなかった。遥かも、明かりも、同じ悪夢に苛まれ、泣き叫んでいた。驚いて家に電話をかければ、飼っているでっかい猫も、のんも、ちび猫も、皆が同じ夢を見て震えていたという。
ただ一人、親父だけが違った。
電話口で親父は、震える声でこう言った。
「遥かのお母さんらしき人が出てきて……そこへ、ベンチのようなものに乗った誰かが、よそ見運転をして突っ込んできたんだ。怖かったよ……」
駅が開通する直前、この土地は、俺たちの眠りを介して何かを共有し、切り裂いた。クラミジア駅という新たな結節点は、ただ列車を停めるためだけにあるのではない。俺たち全員の意識を繋ぎ合わせ、あの凄惨な事故の記憶と、捨てられた人形の呪いを、この海岸に引きずり出そうとしているのだ。

