湿っぽい涙の匂いが漂う教室の扉が、ゆっくりと開いた。
そこに立っていたのは、上松先生と部長の佐藤先生だった。二人は僕たちの泣き顔と、取り乱した僕の姿を見て、驚くどころか、どこか慈しむように目を細めて笑い合っている。
「そんなにこの学校がみんな好きなんだね」
佐藤部長が柔らかい声でそう言うと、教室内がふっと和らいだ。部長は教卓の前に立ち、僕たちの動揺をなだめるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「人間というのはね、誰だって大人になるのは怖いものだよ。変化することも、慣れ親しんだ場所を離れることも、嫌だと思うのは当然だ。でもね、僕たちはいつか必ず、ここを卒業していかなければならないんだよ」
その言葉は諭すようでありながら、僕たちの今の苦しみを否定しない温かさがあった。僕は、拭いきれない涙を袖で拭いながら、力なく顔を上げた。
すると佐藤部長は、ふっと表情を崩し、少しだけ悪戯っぽく笑った。
「そんなにここがいいのなら、話は別だ。……お前ら、どうせ勉強も大してできてないんだろう? ここがいいなら、全員留年決定だな」
一瞬の静寂の後、教室中にどっと笑いが起きた。さっきまでの張り詰めた悲しみは、その冗談のおかげで、少しだけ柔らかな形へと変わった。
「留年かぁ、それもいいかもね」と遙かがくすくす笑い、あかりも涙目で小さく肩を揺らして笑っている。僕も、こみ上げてくるものを押し殺しながら、思わず口元を緩めた。
外の世界では「時代が変わった」と冷たく突き放され、卒業という言葉が「過去との決別」を意味するとしても、この場所だけは違った。先生たちも、僕たちの抱える「大人になりたくない」「消しゴムで消されたくない」という願いを、冗談という形で優しく受け止めてくれている。
「卒業」という避けては通れない未来への恐怖も、今のこの笑い声の中では、少しだけ遠いものに感じられた。僕たちは、留年という冗談を合言葉に、もう少しだけこの温かい教室の空気の中に、甘えていてもいいのかもしれない。
そこに立っていたのは、上松先生と部長の佐藤先生だった。二人は僕たちの泣き顔と、取り乱した僕の姿を見て、驚くどころか、どこか慈しむように目を細めて笑い合っている。
「そんなにこの学校がみんな好きなんだね」
佐藤部長が柔らかい声でそう言うと、教室内がふっと和らいだ。部長は教卓の前に立ち、僕たちの動揺をなだめるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「人間というのはね、誰だって大人になるのは怖いものだよ。変化することも、慣れ親しんだ場所を離れることも、嫌だと思うのは当然だ。でもね、僕たちはいつか必ず、ここを卒業していかなければならないんだよ」
その言葉は諭すようでありながら、僕たちの今の苦しみを否定しない温かさがあった。僕は、拭いきれない涙を袖で拭いながら、力なく顔を上げた。
すると佐藤部長は、ふっと表情を崩し、少しだけ悪戯っぽく笑った。
「そんなにここがいいのなら、話は別だ。……お前ら、どうせ勉強も大してできてないんだろう? ここがいいなら、全員留年決定だな」
一瞬の静寂の後、教室中にどっと笑いが起きた。さっきまでの張り詰めた悲しみは、その冗談のおかげで、少しだけ柔らかな形へと変わった。
「留年かぁ、それもいいかもね」と遙かがくすくす笑い、あかりも涙目で小さく肩を揺らして笑っている。僕も、こみ上げてくるものを押し殺しながら、思わず口元を緩めた。
外の世界では「時代が変わった」と冷たく突き放され、卒業という言葉が「過去との決別」を意味するとしても、この場所だけは違った。先生たちも、僕たちの抱える「大人になりたくない」「消しゴムで消されたくない」という願いを、冗談という形で優しく受け止めてくれている。
「卒業」という避けては通れない未来への恐怖も、今のこの笑い声の中では、少しだけ遠いものに感じられた。僕たちは、留年という冗談を合言葉に、もう少しだけこの温かい教室の空気の中に、甘えていてもいいのかもしれない。

