しゃべる人形

テレビから流れる軽快なCMが、窓辺に差し込む柔らかな光を毒気で汚していくように感じられた。
「日常を取り戻そう」「さあ、また会える」。
画面の中では、再会を喜ぶ人々の笑顔が溢れている。戦争が終わったかのように、ウイルスが収束したかのように、世界はまるで何事もなかったかのように「新しい明日」へ加速している。
けれど、どうしてだろう。
世の中が「日常」という言葉で過去を塗りつぶそうとするたびに、遥かの胸の奥では、冷たい風が吹き抜ける。
マリアの誕生という祝福に沸く一方で、お母さんを理不尽に奪ったあのベンツの運転手の姿が、脳裏から離れない。この世界は、あまりに簡単に「死」を置き去りにする。
「日常」を謳歌できるのは、今、息をしている者たちの都合に過ぎない。生き残った者たちが、自分たちの幸福を確認するために「終わった」と宣言し、死んでいった人々の声を無意識のうちに黙殺している。
奪われた命、看取られることもなく逝った数多の魂。
彼らがそこにいたという事実は、生者たちの陽気な笑い声にかき消されていく。遺族たちが今も抱え続けている深い穴ぼこに、誰も、何一つ言葉を投げかけようとはしない。
「私たちは、何か大切なことを忘れていないだろうか」
遥かは、手の中の温かい湯呑みを見つめた。
みんなが新しい命の誕生に光を当てる中で、影の部分にいる死者たちの沈黙は、誰よりも雄弁に今の世の残酷さを告発している。
この世界が「生者の都合」だけで回っていくのなら、せめて自分だけは、その沈黙を忘れないでおこう。
遥かは静かに目を閉じ、消えた命たちの名が、この部屋の空気の中に確かに存在していることを確かめるように、深く息を吐き出した。