しゃべる人形

湯気の立つ湯呑みを挟んで、小さな円卓に四人が座った。
窓の外では夕暮れが少しずつ色を濃くし、部屋の中にはどこか温かな安らぎが漂っている。お墓参りを終え、こうして家族のように落ち着いて話ができる時間を、遙かは噛みしめていた。
「今日は本当に、いいお参りができましたね」
あかりの母が穏やかに口を開くと、上松も深く頷いた。話は自然と、最近の喜びの話題へと移っていく。マリアの誕生という、新しい命の祝福。
「本当に、マリアが生まれたことは何にも代えがたい喜びです。みんなに直接報告できて、本当によかった」
上松がそう言った直後だった。彼は少し浮かれた調子で、言葉を重ねた。
「いやあ、本当にね。あんなにマリアの誕生がめでたいんだから、今日のお墓参りなんて、いわばついでみたいなもの……」
その言葉が部屋の空気を一瞬で凍らせた。遙かの隣で、あかりの表情が硬くなるのが分かった。あかりは湯呑みを置くと、真っ直ぐに上松を見据えた。
「上松さん。それは言い過ぎじゃない?」
あかりの声は低く、けれど震えていた。
「遙かがこうして一緒にいるのに。『お墓参りはついで』なんて……。遙かのお母さんは、もういないんだよ。そんな言い方、あまりに失礼じゃない?」
静寂が訪れた。遙かはただ俯くことしかできない。けれど、その沈黙を破ったのは、上松の開き直りではなく、困惑と反省に満ちた声だった。
「……そうだった。ごめん、遙かちゃん」
上松が頭を抱え、隣ではあかりの母も小さく息を呑んで手を合わせた。
「本当に、ごめんなさい。今の私の言い方はあまりに大人げなかったわね。自分が少し調子に乗っていたみたい……。遙かちゃん、悲しい思いをさせて本当にごめんなさい」
普通、大人は自分の非を認めず、立場を盾にして茶々を入れたり、自分の言い分を正当化しようとしたりするものだ。しかし、彼らは違った。彼らは、あかりの言葉に一度立ち止まり、素直に遙かの心に寄り添おうとしてくれた。
遙かは顔を上げ、小さく首を横に振った。謝られること自体に戸惑いながらも、自分を「一人の大切な人間」として扱ってくれる彼らの温かさに、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……ううん。大丈夫です。マリアちゃんのこと、私もすごく嬉しいから」
遙かの言葉に、上松とあかりの母は安堵したように微笑んだ。夕闇の中、冷めかけたお茶が、さっきよりも少しだけ甘く感じられた。