しゃべる人形

車窓を流れる景色が、行きよりも少しだけ落ち着いて見える。
「お墓参り、来てよかったね」
ハンドルを握るあかりの横顔に、そんな言葉をかけようとして、遙かは口をつぐんだ。助手席の窓越しに流れる木々の緑が、二人の沈黙を優しく包み込んでいる。上松やあんなたちとの騒がしい一悶着が、まるで遠い昔の出来事のように思えるのは、先ほどまで墓前で手を合わせていた静寂のせいだろうか。
車が住宅街の細い道へ入ると、あかりがふうと小さく息を吐いた。
「ねえ、遙か。帰ったら、少しお茶でも淹れようか」
その言葉には、誰かに何かを強要されることのない、二人だけの時間が始まるという微かな安堵が混じっていた。
家に着くと、エンジンを切った静けさが耳に心地よく響く。玄関を開け、慣れ親しんだ空気に触れた瞬間、あかりは少しだけ肩の力を抜いた。遙かは車から降り、荷物を抱え直して彼女の背中を見つめる。ここから先は、誰の介入もない場所だ。
上松やあんなといった、あかりの過去や人間関係が入り乱れる場所から離れ、私たちはようやく自分たちの歩幅で歩き出せる。遙かはゆっくりと玄関の框を跨いだ。
「おかえりなさい、あかり」
遙かのつぶやきは、誰に聞かせるためでもなく、ただ自分たちが確かにここに帰ってきたという証のように、静かに部屋の中に溶けていった。これから続く、ささやかで、けれど誰にも邪魔されない新しい生活の予感が、窓から差し込む夕光の中に静かに揺れていた。