翌日、テレビをつけると、特番のテロップが踊る東京拘置所の姿が映し出されていた。
ニュース番組の映像には、見覚えのある場所が映り込んでいた。あの日、僕が怒りのあまり思い切り蹴飛ばしてへこませた、あの無機質なベンチだ。なんと、そのベンチの下からは麻薬やアルコール、さらには被害者である高校生たちの遺品まで隠されていたという。あの中には、彼が奪った未来が、証拠品として詰まっていたのだ。
今日が、あいつの死刑執行の日だった。
テレビ各局はこぞって特番を組み、SNSで若者を食い物にし、遥かのお母さんの命まで奪ったあの男の悪逆非道ぶりを繰り返し報じている。僕はいてもたってもいられず、裁判の傍聴を終えた足で、そのまま東京拘置所へと向かった。
冷たいコンクリートの壁の向こう側。この街の喧騒とは隔絶された、あの静かな地下室で、男の命が消えようとしている。僕はその瞬間を見届けたくて、入り口で中に入れてくれと懇願した。
「……ここから先は入れません。関係者以外は立ち入り禁止です」
警備員に淡々と断られ、僕はすごすごと引き返した。
その夜、あかりの家に戻って、みんなにその一部始終を話した。
「……結局さ、死刑が行われる地下室が見たくて門の前まで行ったんだけど、当たり前だけど追い返されちゃったよ。残念だったな」
僕が真顔でそう言うと、静まり返っていたリビングに、一瞬の間をおいて爆笑が巻き起こった。
「秋生、あんたねぇ……!」
あかりが涙を流しながら僕の肩を叩く。遥かも、さっきまでお母さんのことを想って沈んでいたのが嘘のように、お腹を抱えて笑っている。上松までが、缶ビールを片手に「お前、どんだけ物騒なんだよ!」と声を上げて笑い転げていた。
僕もつられて笑った。
怒りや憎しみ、そして恐怖。僕たちを縛り付けていたドロドロした感情が、その笑い声にかき消されていく。死刑執行という重い出来事でさえ、僕たちの絆の前では、ひとつの「笑い話」として消化されていくのだ。
『――あいつの命が消えたという事実は、僕たちの明日を何一つ変えない。けれど、こうして仲間たちと顔を見合わせて笑い合える——そのことだけが、あいつが奪い去った未来に対する、僕たちなりの最大の反撃なんだ』
僕はパソコンの画面に向かい、その一文を打ち込んだ。
もう、悲しみを物語の主役にすることはない。今日からは、僕たちの日常こそが、何よりも輝く物語になるのだから。
ニュース番組の映像には、見覚えのある場所が映り込んでいた。あの日、僕が怒りのあまり思い切り蹴飛ばしてへこませた、あの無機質なベンチだ。なんと、そのベンチの下からは麻薬やアルコール、さらには被害者である高校生たちの遺品まで隠されていたという。あの中には、彼が奪った未来が、証拠品として詰まっていたのだ。
今日が、あいつの死刑執行の日だった。
テレビ各局はこぞって特番を組み、SNSで若者を食い物にし、遥かのお母さんの命まで奪ったあの男の悪逆非道ぶりを繰り返し報じている。僕はいてもたってもいられず、裁判の傍聴を終えた足で、そのまま東京拘置所へと向かった。
冷たいコンクリートの壁の向こう側。この街の喧騒とは隔絶された、あの静かな地下室で、男の命が消えようとしている。僕はその瞬間を見届けたくて、入り口で中に入れてくれと懇願した。
「……ここから先は入れません。関係者以外は立ち入り禁止です」
警備員に淡々と断られ、僕はすごすごと引き返した。
その夜、あかりの家に戻って、みんなにその一部始終を話した。
「……結局さ、死刑が行われる地下室が見たくて門の前まで行ったんだけど、当たり前だけど追い返されちゃったよ。残念だったな」
僕が真顔でそう言うと、静まり返っていたリビングに、一瞬の間をおいて爆笑が巻き起こった。
「秋生、あんたねぇ……!」
あかりが涙を流しながら僕の肩を叩く。遥かも、さっきまでお母さんのことを想って沈んでいたのが嘘のように、お腹を抱えて笑っている。上松までが、缶ビールを片手に「お前、どんだけ物騒なんだよ!」と声を上げて笑い転げていた。
僕もつられて笑った。
怒りや憎しみ、そして恐怖。僕たちを縛り付けていたドロドロした感情が、その笑い声にかき消されていく。死刑執行という重い出来事でさえ、僕たちの絆の前では、ひとつの「笑い話」として消化されていくのだ。
『――あいつの命が消えたという事実は、僕たちの明日を何一つ変えない。けれど、こうして仲間たちと顔を見合わせて笑い合える——そのことだけが、あいつが奪い去った未来に対する、僕たちなりの最大の反撃なんだ』
僕はパソコンの画面に向かい、その一文を打ち込んだ。
もう、悲しみを物語の主役にすることはない。今日からは、僕たちの日常こそが、何よりも輝く物語になるのだから。

