しゃべる人形

翌朝、俺は重い頭を抱えながら校門をくぐった。いつもの変わらない教室の光景が広がっている。机に座るなり、噂を聞きつけたクラスメイトが正夫の机を囲んでいた。
「おい、マジかよ。昨日、お前ら飲んだんだって?」
正夫はケロリとした顔で肩をすくめた。
「飲んではいないよ。ただの夜食だ」
「ええっ、本当に?」
クラスの端で聞いていたハルカが驚きのあまり声を上げる。そこに、異変を察したあかりが近づいてきた。彼女は俺たちの顔と、周囲の騒ぎを交互に見ている。状況が飲み込めないのか、あかりは戸惑ったように首を傾げたまま、何も言葉を発さずに俺の隣で黙り込んでいた。
俺はあかりの視線を受けながら、小声で必死に説明した。
「……そうなんだよ。正夫と出かけてたら偶然上松先生に会っちゃってさ。一緒にいたんだよ。でも、頼むからこの話は黙っておいてくれよ」
俺がそう言った瞬間、教室の扉が勢いよく開いた。上松が入ってくる。
「……よし、お前ら。ホームルーム始めるぞ」
いつものように出席を取り始めた上松は、俺たちの横を通る際、誰にも聞こえないような小さな声で付け加えた。
「昨日の件……お前ら、絶対に秘密だぞ。いいな」
俺は小さく頷いた。教室の空気が、まるで何事もなかったかのように平穏を装い始める。上松は教壇に立ち、いつもの退屈な連絡事項を読み上げ始めたが、俺の心臓はまだ、昨夜の居酒屋の余韻で脈打っていた。