しゃべる人形

親戚たちが最後に吐き捨てた「死んじゃえばいい」という言葉は、かつてないほどの冷酷さを孕んでいたけれど、不思議と僕たちの心にはもう、その言葉が傷として残ることはなかった。
むしろ、彼らが僕たちの世界から完全に消え去り、二度と戻ってこないことを誓わせる「絶縁状」のようにも聞こえたからだ。
警察官が去り、静寂が戻ったあかりの家のリビング。窓から差し込む陽光が、遥かの涙で濡れた頬を優しく照らしている。
あかりは、感極まって大泣きする遥かを抱きしめながら、いたずらっぽく、でもどこまでも温かい声で言った。
「遥かちゃん、家が二つもあっていいな」
遥かは鼻をすすりながら、きょとんとした表情で首を振った。
「……え? 家は一個だよ。あかりちゃんのおうちはここだし、私のおうちはあそこだもん」
あかりは首を横に振る。彼女の瞳には、揺るぎない確信が宿っていた。
「ううん、二つだよ。私のおうちには遥かちゃんが住むんだもん。だから、あかりのおうちは遥かちゃんのおうち。そして、遥かちゃんの実家は、遥かちゃんがいつでも帰れる場所。……ね? 二つあるでしょ?」
その言葉の意味を理解した瞬間、遥かの目から再び大粒の涙が溢れ出した。それは悲しみの涙ではない。自分という存在を、こうして無条件に受け入れてくれる場所があるという、安堵と幸福の涙だった。
あかりのお母さんもまた、キッチンから穏やかな微笑みを浮かべて見守っていた。
「本当に、あんな親戚には驚かされたけれど……でも、遥かちゃん。ここはあなたの家よ。血なんて繋がっていなくても、一緒にご飯を食べて、笑って、泣いて。そうやって築いていくのが本当の家族なんだから」
お母さんのその一言が、僕たちの心にあったわだかまりを、すべて温かいスープのように溶かしていった。
僕はその光景を、キーボードを叩く手とともに目に焼き付けた。
『――理不尽な悪意に押しつぶされそうになっても、僕たちは立ち止まらなかった。血縁という名の呪いよりも、僕たちが選んだ絆のほうが、遥かに強くて温かい。遥かは今、二つの居場所を手に入れた。一つは守り抜いた思い出の城。もう一つは、明日を共に生きるための新しい希望の城。物語は、悲劇から喜劇へとその顔を変え始めた』
ライブの熱狂、警察のサイレン、そして親戚たちの去り際。
すべてが今日という日の記録となって、物語の中に収まっていく。
僕はノートパソコンを閉じ、深呼吸をした。
夜風が、少しだけ春の匂いを連れてくるような気がした。もうすぐ、この凍てつくような季節が終わり、僕たちの新しい生活が始まる。
「……ねえ、秋生。これからは、ずっと一緒だよ」
あかりの声が、物語の最後の行のように、僕の心に優しく響いた。