しゃべる人形

家の前で響く重苦しいサイレンの音が、空気を凍りつかせた。パトカーが数台、あかりの家の前に横付けされる。ドアを開けると、そこには冷徹な表情の警察官たちが立っていた。
目の前で、昨日まで横柄に振る舞っていた親戚の老夫婦が、まるで氷の上に立たされたかのようにガタガタと震え始めている。自分たちの強欲が、ついに法の目に留まったのだと悟ったのだろう。
警察官の一人が、厳しい口調で口を開いた。
「遥かさん、ですね。例のベンツの男……SNSで何十人もの若者を騙し、川に突き落とし、そして最後には飲酒・スマホ操作による煽り運転であなたのお母さんを死に至らしめたあの男の裁判が、本日結審しました」
一瞬、リビングに静寂が走った。
「結果は……極刑、死刑判決です。あの男の残虐性と、計画的な犯行が全て認定されました」
その言葉に、遥かはその場にへたり込んだ。あかりがすぐに駆け寄り、彼女を抱きしめる。死刑という判決が、お母さんの命を奪った悪意に対する唯一の報いなのだと、改めて突きつけられた瞬間だった。
警察官は表情を崩さず、続けて僕たちと親戚の方を見比べた。
「そして、もう一つ。現在この家で起きている遺産や不動産を巡るトラブルについても、警察として把握しています。これは家庭裁判所の管轄ですが、もし親戚の方々が、遥かさんを保護する義務を放棄したまま、家を売却して私的に利益を得ようとするならば、それは『恐喝』あるいは『横領』に問われる可能性があります。もしそうなれば、今日ここでお会いするのは『事情聴取』ではなく『逮捕』の時です」
警察官の最後の一言は、親戚たちの心臓を直接握り潰すような宣告だった。
「遥かさんの権利を守るために、私たちは監視を続けます。今後は不当な要求を一切行わないように」
親戚たちは言葉も失い、逃げるようにその場を後にした。もう、彼らが遥かの家のことやお金のことで、僕たちの前に現れることはないだろう。
僕は震える手でノートパソコンのキーボードを打った。
『――雨は上がった。死刑判決という報いと、法による守護。それは、奪われた命が返ってくるわけではないけれど、少なくとも、これ以上、遥かたちの未来が泥で汚されることはないという境界線だった』
あかりの家には、ようやく本当の静けさが戻ってきた。
遥かはあかりの胸に顔を埋め、声を上げて泣いている。その泣き声は、昨日のような絶望の叫びではなく、少しだけ肩の荷が下りたような、出口を見つけた人の泣き声だった。
僕は窓の外を見た。
雲の隙間から、ほんの少しだけ青空が覗いている。
「これで、ようやく……終わるんだね」
あかりが僕の隣に立ち、そう呟いた。
僕はパソコンの画面を閉じ、遥かとあかりの元へ歩み寄った。長い戦いだった。でも、ここからが本当の僕たちの物語の始まりだ。この残酷な世界の中で、僕たちは自分たちの力で、自分たちの居場所を勝ち取ったのだから。