しゃべる人形

朝の5時。まだ空が白み始めたばかりの静寂を切り裂くように、『カタカタカタカタ……』と力強いエンジンの音が響き渡った。親父がユンボを動かしている音だ。
「おい、乗れ!」
親父はそう言って、慣れた手つきでユンボの操縦席を指差した。荷台には僕が乗り、遥かの家へと向かう。クリスマスが終わったばかりの冬の朝、冷たい空気が肌を刺すけれど、心はどこか高揚していた。
「親父、今日は本当にありがとうな。遥かの荷物、多くて困ってたんだ」
僕がそう言うと、親父は操縦席から振り返りもせず、ただ口端を少しだけ歪めた。
「……お前が連れてきた友達だろ。困ったときは助け合うのが当たり前だ。それに、こいつ(ユンボ)もたまには現場以外の仕事をせんと腕が鈍るからな」
ユンボの無骨なフォルムが、街の風景をゆっくりと押し分けて進んでいく。普段なら絶対に見ることのない、重機での引越し行脚。でも、今日ばかりはこの重機が一番頼もしかった。
遥かの家に着くと、彼女は大きな荷物を前にして立ち尽くしていた。お母さんとの思い出が詰まった家を離れるのは、きっと言葉では言い表せないほど辛いことだろう。でも、あかりが昨日電話で約束した「新しい家族」としての生活が、彼女の背中を後押ししているように見えた。
「遥か、待たせたな!」
僕が声をかけると、遥かは少しだけ赤い目をして、でも小さく微笑んで頷いた。
「うん……ありがとう、秋生くん。あかりちゃんも、待っててくれるよね」
親父はユンボのバケットを器用に動かし、遥かの荷物を手際よく積み込んでいく。まるで大きな手で荷物を守っているみたいだ。
「おい、さっさと積め。朝から冷えるだろ」
親父のぶっきらぼうな励ましに、僕たちも手伝って荷物を運ぶ。一つひとつの荷物に、遥かの過去と、これから始まる新しい生活への希望が詰まっている。
朝日がユンボの黄色い車体に反射して眩しく光る。
絶望に満ちていた昨日の夜が嘘のように、今は新しい一日の始まりが、力強く、そして少し騒がしく動き出そうとしていた。
さあ、行こう。
このユンボに乗せて、遥かを新しい家へ、あかりの待つ場所へ。
親父の運転するユンボが、物語の新しい章を刻むように、ゆっくりと、しかし確実に進み始めた。