しゃべる人形

桜坂高校の映画館――かつて生徒たちの夢や物語が映し出されたその場所は、今夜、僕たちにとっての避難所であり、魂を洗濯するための神聖な場となっていた。
病院の喧騒を離れ、僕たちはこの場所に集まった。あかり、遥か、正志、理子ちゃん、そしてあんなと、眠るマリアを抱いたままの僕たち。
スクリーンには、小室哲也の全盛期を彷彿とさせるTRFのライブ映像が大きく映し出されている。突き抜けるようなシンセサイザーの音色と、パワフルなダンス。かつて僕たちが毛嫌いしていたはずの「華やかすぎる世界」が、今の僕たちの心には、なぜか懐かしく、そして何よりも優しく響いた。
「すごいね……みんな、こんなに輝いてたんだ」
遥かが、少しだけ声を震わせて呟いた。さっきまで、彼女の心は地獄の淵にあった。でも、音楽の持つ圧倒的なエネルギーは、彼女の凍りついた感情を、少しずつ溶かしていった。
僕は最前列の席で、膝の上でノートパソコンを開いた。ライブの熱気が背中を押してくれる。物語の続きは、今ここで書かなくてはいけない。
『――桜坂高校の映画館。かつてここには、無数の物語が駆け巡った。だが今、スクリーンに映るのは、音楽という名の祈りだ。過去の光が、未来を失いかけた者たちの心に、再び小さな火を灯していく』
キーボードを叩く指が、TRFのビートと同期する。
『僕たちはここで、笑い、泣き、そして忘れようとした。悲しみが消えるわけじゃない。ただ、この爆音の中でなら、僕たちは「生きている」という事実を、理屈抜きで肯定できる気がした。あかりが僕の肩に頭を乗せ、ライブを見つめている。彼女の呼吸が、僕の打つリズムと一つになる』
画面の中で、ダンサーたちが力強く宙を舞う。それはまるで、命の尊さを訴える叫びのようだった。
『この映画館の闇は、僕たちを守る殻だ。外には残酷な現実があり、理不尽な悪意が渦巻いている。けれど、この瞬間の僕たちには、音楽と、物語と、隣にいる仲間の体温しかない。それが、今の僕たちにとっては、何よりも重たい、何よりも優しいクリスマスプレゼントだった』
僕は執筆を続けながら、時折スクリーンの輝きに目をやる。
悲しみを抱えたまま、それでも音楽に身を委ねて前を向こうとする仲間たちの姿。
物語は、ライブの終わりと共に、また次のページへ向かっていく。ここは桜坂高校の映画館。僕たちの魂が、ようやく本当の意味で「救われた」場所として、物語の歴史に刻まれていく――。