しゃべる人形

家に着くと、でっかい猫が待っていた。カチカチと激しく歯を鳴らし、その大きな瞳には涙を浮かべていた。
「一体、何があったの……?」
その問いかけに、僕は力尽きたようにすべてを話した。遥かのお母さんのこと、ベンツの煽り運転、そして僕がその怒りを車にぶつけてしまったこと。でっかい猫は、僕の告白を聞きながら、時折小さな悲鳴のような鳴き声を上げた。
「あんた、そんなことして……危ないじゃない!」
叱りながらも、猫は僕の傷ついた心をなだめるように、その体を僕の足元に擦り寄せた。彼もまた、僕がどれほど深い怒りと悲しみの中にいたのかを、言葉を超えて理解してくれたようだった。
僕はふと、今のこの出来事をどうやって世の中に伝えればいいのかと思った。この理不尽な現実を、ただの「悲しい事件」で終わらせたくない。僕は自分の思いを、いつも小説を更新しているネットのプラットフォームに書き込むことにした。
キーボードを叩く指が震える。
『僕の物語』の続きとして、今日起きたすべてを、ありのままに綴る。それは単なる記録ではなく、遥かのお母さんという、かけがえのない命への追悼であり、世の中の理不尽に対する僕なりの抵抗の形だった。
書き終えた時、ふと画面の端に目を向けると、今日の出来事についてSNSやネット掲示板が騒然としているのが見えた。僕が書いた文章には、すでに多くの読者から反応が寄せられている。
「……こんなに多くの人が、見てくれている」
画面の向こうには、名前も知らないけれど、僕たちの祈りや怒りを共有してくれる人々がいる。
それは、まるで遠い夜空に散らばる星たちが、それぞれ違う場所から同じ月を見つめているような感覚だった。
「今日も、いろいろあったね……」
僕は、書きかけの物語を更新する。あかりのこと、生まれたばかりのマリアのこと、そして遥かのお母さん。僕たちの物語は、今はもう3本、4本と枝分かれして、広がり続けている。
どんなに辛いことがあっても、こうして誰かに語りかけ、誰かと繋がっている限り、僕たちの命の軌道は決して途絶えることはない。夜はまだ深いけれど、ネットの向こうの誰かが、僕の言葉を読んでいてくれる。それだけで、少しだけ前を向いて、また明日を迎えられるような気がした。
でっかい猫が、静かに僕の横で丸くなった。その温もりを感じながら、僕はまた、次の物語の続きを考え始めた。命の物語は、まだ始まったばかりなのだから。