「おい、次はそっちが何歌うんだよ」
常連の男が湿っぽい話を切り上げ、俺たちにジョッキを差し出した。俺は少し迷ったが、正夫と顔を見合わせてから、力強く答えた。
「……じゃあ、俺はMr.Childrenの『Sign』を歌いたい」
「分かった、それいこうぜ!」
常連の男がカラオケの機械を操作すると、聞き覚えのあるイントロが店内に流れた。俺はマイクを握りしめ、あかりのことを思い浮かべながら歌い始めた。
「今日は、俺があかりと付き合えた記念日だ。……それと、上松先生が、あかりのお母さんとあかりを引き取った記念日だろ。全部まとめて祝い合おうぜ!」
正夫が叫ぶようにそう言うと、上松先生も顔をぐしゃぐしゃにしながら、俺たちの肩を抱いた。曲がサビに入ると、店内の全員がそのメロディに身を委ねた。
しかし、曲の途中で、上松先生が突然歌を止めた。
「……ちょっと待ってくれ、ちょっと待て、ちょっと待て」
先生はマイクを放り出し、テーブルの上に突っ伏してしまった。曲だけが空虚に流れ続け、店内の空気が一瞬にして凍りつく。常連の男も、女の子も、呆然と先生を見つめるしかなかった。
「……やっぱり、俺には……歌えないよ。幸せな歌なんて、今の俺には重すぎるんだ」
先生のつぶやきは、音楽にかき消されそうなくらい小さく、けれど胸の奥に刺さるほど切実だった。あかりと、あのお母さんと、これから始まる歪な生活。その重圧が、ようやく先生の肩にのしかかってきたようだった。俺は歌うのをやめ、ただ呆然と、揺れるマイクを見つめていた。
常連の男が湿っぽい話を切り上げ、俺たちにジョッキを差し出した。俺は少し迷ったが、正夫と顔を見合わせてから、力強く答えた。
「……じゃあ、俺はMr.Childrenの『Sign』を歌いたい」
「分かった、それいこうぜ!」
常連の男がカラオケの機械を操作すると、聞き覚えのあるイントロが店内に流れた。俺はマイクを握りしめ、あかりのことを思い浮かべながら歌い始めた。
「今日は、俺があかりと付き合えた記念日だ。……それと、上松先生が、あかりのお母さんとあかりを引き取った記念日だろ。全部まとめて祝い合おうぜ!」
正夫が叫ぶようにそう言うと、上松先生も顔をぐしゃぐしゃにしながら、俺たちの肩を抱いた。曲がサビに入ると、店内の全員がそのメロディに身を委ねた。
しかし、曲の途中で、上松先生が突然歌を止めた。
「……ちょっと待ってくれ、ちょっと待て、ちょっと待て」
先生はマイクを放り出し、テーブルの上に突っ伏してしまった。曲だけが空虚に流れ続け、店内の空気が一瞬にして凍りつく。常連の男も、女の子も、呆然と先生を見つめるしかなかった。
「……やっぱり、俺には……歌えないよ。幸せな歌なんて、今の俺には重すぎるんだ」
先生のつぶやきは、音楽にかき消されそうなくらい小さく、けれど胸の奥に刺さるほど切実だった。あかりと、あのお母さんと、これから始まる歪な生活。その重圧が、ようやく先生の肩にのしかかってきたようだった。俺は歌うのをやめ、ただ呆然と、揺れるマイクを見つめていた。

