しゃべる人形

あかりは、病院の窓から夜空を見上げながら、ポツリと言った。
「ねえ、クリスマスのプレゼントってね。前は、お人形さんや可愛い洋服をねだって、お母さんを困らせてばかりいたの。でもね、今思うの。私にとってのプレゼントは、物をもらうことじゃなくて……こうやって、みんなと笑って過ごす時間そのものなんだなって」
その言葉に、周りにいたみんな——正雄や遥か、そして先ほどまで空を駆けていたリーダーたちまで——が、驚きと感嘆の表情を浮かべた。
「あかりちゃん……なんて無邪気で、それでいて、すごく大人になったね」
かつて僕があかりと付き合い始めた頃、彼女は自分の感情をそのままぶつけるような、わがままな面があった。その「障害」ゆえの純粋さが、時に周囲を戸惑わせることもあった。けれど、今のあかりには、痛みを経てたどり着いた強さと、包み込むような優しさがある。
僕はそんな彼女の横顔を見つめながら、優しく微笑んだ。
「……成長したな。でも、それはそれで、あかりらしくてすごく素敵だよ。ただ、やっぱりクリスマスだろ? あかりがずっと欲しいって言っていたあのお人形さん、今日はもうお店が閉まっちゃってるけど、明日必ず僕が買ってあげるよ」
あかりは少しだけ驚いたように目を見開き、それから花が咲いたような笑顔を見せた。
「本当? 秋生、ありがとう。……でもね、私、もうお人形よりも大切なものをもらっちゃったから。この子の頭を撫でられただけで、もう十分なくらい幸せよ」
あかりはそう言って、あんなの腕の中で静かに眠る赤ん坊の小さな頭を、壊れ物を扱うようにそっと撫でた。その指先は、祈るように優しかった。
「この子、なんていう名前にする?」
誰かが問いかけると、みんなで顔を見合わせた。温かな沈黙が流れる。
「まだ時間はあるし、慌てなくていいよ。この子の顔をじっくり見て、一番似合う名前を考えてあげよう」
あんなは嬉しそうに頷いた。今日という一日に、名前という形ある記号以上の重みが込められているからこそ、急いで決める必要はなかった。
窓の外では、雪が少しずつ止みかけている。
プレゼントや名前といった「形」ではなく、命のぬくもりと、誰かを想う心という「永遠」を、僕たちは今、共有している。このクリスマスは、あかりにとっても、この子にとっても、そして僕たち一人ひとりにとっても、一生忘れられない宝物として、それぞれの心の中に名前以上の名前で刻まれていった。