しゃべる人形

あかりは、遥かと親友としての絆を深めると同時に、もう一人の大切な仲間であるあんなのことを考えていた。お腹の命を守り、これから母親になろうとしているあんなのために、あかりはすぐに動いた。
「あんなの子供、私たちが守らなきゃ。……そうだ、近所のお婆さんが入院していたあの病院に相談してみようよ」
あかりが迷わず電話をかけると、受話器の向こうからは、まるで吉野家の店員のように明るく、テキパキとした声の女の子が出た。その子は看護師の卵のような存在で、あかりの必死な相談にこう答えた。
「大丈夫ですよ。今の状態なら、私たちが全力でサポートしますから」
病院での診察の結果、あんなのお腹はもうずいぶんと大きくなっていた。診断の結果、出産予定日は12月25日。奇しくも、イエス・キリストの生誕の日と同じだった。
運命の糸が、あんなと子供をクリスマスという聖なる日に導いたのだ。
今年のクリスマス会は、急遽予定が変更された。あんなは体調を優先し、教会での劇には参加できない。けれど、その絆が途切れることはなかった。教会と病院を、現代の魔法であるWi-Fiとスマホで繋ぐことになったのだ。
「あんな、見ててね。私たち、あんなの分まで演じるから」
劇の当日。教会の静寂な空気の中に、スマホの小さな画面を通じて、病院のベッドにいるあんなの顔が映し出された。画面の向こうで、あんなは少し疲れた顔をしながらも、嬉しそうに微笑んでいる。
教会のステージには、僕やあかり、正雄、そして遥かが立っていた。
あんなが不在の劇。最初は少しだけ寂しさが漂ったけれど、僕たちが演じる物語は、あんなという「不在の存在」によって、かえって強い光を放っていた。
「あんなのいない舞台なんて」と最初は悔しがっていた正雄も、画面越しに映るあんなの姿を見て、力強く役を演じきった。
僕たちの祈りは、電波に乗って病院へ、そしてあんなの胎内にいる小さな命へと届いていく。教会に集まった人々は、ただの劇ではない、命と愛を繋ぐリアルタイムの「奇跡」を目の当たりにしていた。
病院のナースステーションから流れてくるモニターの映像。教会の荘厳な讃美歌。そのすべてが溶け合い、12月25日の夜を包み込んでいく。あんなの命が、今まさに生まれ変わろうとしている。
「あかり、見て。画面の向こうのあんな、すごく綺麗だよ」
僕が囁くと、あかりは聖母のような優しい微笑みを浮かべた。
「ええ、秋生。私たちが繋いできたこの絆は、どんな場所でも、どんな壁があっても届くんだわ」
教会と病院を繋ぐ小さな画面は、僕たちにとっての希望そのものだった。あんな、もうすぐだね。君が命を懸けて守ろうとしている光が、あと少しでこの世界に降りてこようとしている。