しゃべる人形

「こういうものほど金曜でもやるか」
常連の男がそう言って腰を上げると、店の女の子も「はい、かしこまりました。じゃあやりましょう!」と楽しげに相槌を打った。店内の空気が一気に変わり、有線放送か何かの古い歌謡曲が流れる中、常連の男と女の子、そして上松と俺たち二人が、酒を片手に声を張り上げ始めた。
男が選んだのは、やけに時代を感じさせる古い歌だった。
「飲んで、飲んで、飲まれて、飲んで……」
誰の歌だったか俺には分からなかったが、男は真っ赤な顔で喉を震わせ、上松もそれに合わせて肩を組みながら叫ぶように歌った。
歌が終わると、男はジョッキを叩きつけて、ふと寂しげな笑みを浮かべた。
「なあ、いいか。……実はな、俺の奥さんも逃げちまったんだよ。俺が酔っ払うと、すぐに暴力を振るうからさ。嫌になっちまったんだろうな」
男は自嘲気味にそう言って、またテキーラを煽った。横で聞いていた女の子は、慣れた手つきでグラスを拭きながら、あきれたような、それでいてどこか優しい口調で言った。
「そうですよね。酔っ払うと、本当にお客さん、大変ですからね。……前に一度、奥さんがお迎えに来た時、お客さんが暴れて大変なことになったじゃないですか。覚えてます?」
女の子のその言葉に、男は「ああ、そうだな……あの時は、すまないことをした」と頭をかき、また一つ大きな溜め息をついた。
店の中は酒とタバコの匂い、そして誰かの後悔と慰めが混ざり合い、ひどく濃密な夜が続いていた。高校生の俺たちには一生縁がないと思っていたはずの、「大人たちのやり場のない孤独」が、そこには生々しく渦巻いていた。