あかりのお母さんの横顔を見ていると、ふと胸の奥がざわつく。彼女の持つ、どこか儚げで、それでいて凛とした純粋な美しさ。上松先生が彼女に心を奪われるのも無理はないと、僕自身も直感的に理解できた。しかし、だからこそあの男の「二重生活」が許せなかった。
家では献身的な夫であり、あかりの父として振る舞いながら、その実、ザミジャ遺跡の風俗店で欲望を散らす日々。だが、お母さんから聞かされた彼の本音は、僕の予想を少しだけ裏切るものだった。
「あの人はね、あかりの病気のことも、私の苦労も、すべて知った上で結婚してくれたの。……お金のためだけじゃなく、あかりを、そして私を一生かけて守るという、不器用なりの覚悟だったのよ」
つまり、上松先生にとってこの家庭は、単なる逃げ場ではなく、愛という名のエゴの象徴だったのだ。そして、彼が外で放蕩を繰り返すのは、そのあまりに重い現実から逃げ出すための、卑怯で、しかし人間臭い防衛反応でもあったのだろう。
僕と彼は、皮肉にも同じ「あかりを愛する者」として、同じリングに立つライバルだった。
「……先生のこと、憎んでる?」
お母さんの問いに、僕は言葉を飲み込んだ。正直に言えば、憎い。あかりを置いて夜の街へ消える彼の背中を、僕は何度も軽蔑してきた。けれど、もしあかりの命が明日消えてしまうかもしれないという重圧を背負い、彼もまた彼なりのやり方で崩壊を防いでいたのだとしたら――。
この街の、偏差値というモノサシでしか自分を測れないような、この「頭の悪い連中」が集まる高校。ここでは、上松先生のような「屑」こそが、唯一の理解者なのだ。授業は簡単で、テストは甘く、僕たちの未熟な愛を大目に見る。彼が教壇で振る舞うその「適当さ」は、僕たち底辺を生きる生徒にとっては、何よりも尊い自由だった。
彼がもし失職すれば、僕たちはこの聖域(シェルター)を追われることになる。
「……いいえ。僕らは共犯関係ですよ。彼が外で何をしていても、ここでの僕たちの平穏が守られるなら」
僕はあかりの手を強く握り直した。画面の中では、鬼滅の刃の激しい戦闘が繰り広げられている。外の世界では、上松先生がまた怪しげなネオンの下を歩いているのだろう。その汚れた手で稼いだ金が、あかりの薬代になり、僕たちの静かな夜を支えているという現実。
この歪な共生関係こそが、僕たちの生きる、冷たくて温かい世界の正体だった。僕は先生を許すことはできない。けれど、その「屑」な部分を含めて、彼を教師として、そしてライバルとして受け入れるしかなかった。
「……あかり、行こう。僕たちは、僕たちの物語を生きるんだ」
僕はテレビを消し、あかりを抱きしめた。崩れゆく日常の隙間で、僕とあかりは、何にも邪魔されない「愛」という名の真実を、これからも泥の中で泥を糧にしながら、力強く咲かせていく。先生の放蕩なんて、僕たちの永遠の誓いの前では、ただの通り雨に過ぎないのだから。
家では献身的な夫であり、あかりの父として振る舞いながら、その実、ザミジャ遺跡の風俗店で欲望を散らす日々。だが、お母さんから聞かされた彼の本音は、僕の予想を少しだけ裏切るものだった。
「あの人はね、あかりの病気のことも、私の苦労も、すべて知った上で結婚してくれたの。……お金のためだけじゃなく、あかりを、そして私を一生かけて守るという、不器用なりの覚悟だったのよ」
つまり、上松先生にとってこの家庭は、単なる逃げ場ではなく、愛という名のエゴの象徴だったのだ。そして、彼が外で放蕩を繰り返すのは、そのあまりに重い現実から逃げ出すための、卑怯で、しかし人間臭い防衛反応でもあったのだろう。
僕と彼は、皮肉にも同じ「あかりを愛する者」として、同じリングに立つライバルだった。
「……先生のこと、憎んでる?」
お母さんの問いに、僕は言葉を飲み込んだ。正直に言えば、憎い。あかりを置いて夜の街へ消える彼の背中を、僕は何度も軽蔑してきた。けれど、もしあかりの命が明日消えてしまうかもしれないという重圧を背負い、彼もまた彼なりのやり方で崩壊を防いでいたのだとしたら――。
この街の、偏差値というモノサシでしか自分を測れないような、この「頭の悪い連中」が集まる高校。ここでは、上松先生のような「屑」こそが、唯一の理解者なのだ。授業は簡単で、テストは甘く、僕たちの未熟な愛を大目に見る。彼が教壇で振る舞うその「適当さ」は、僕たち底辺を生きる生徒にとっては、何よりも尊い自由だった。
彼がもし失職すれば、僕たちはこの聖域(シェルター)を追われることになる。
「……いいえ。僕らは共犯関係ですよ。彼が外で何をしていても、ここでの僕たちの平穏が守られるなら」
僕はあかりの手を強く握り直した。画面の中では、鬼滅の刃の激しい戦闘が繰り広げられている。外の世界では、上松先生がまた怪しげなネオンの下を歩いているのだろう。その汚れた手で稼いだ金が、あかりの薬代になり、僕たちの静かな夜を支えているという現実。
この歪な共生関係こそが、僕たちの生きる、冷たくて温かい世界の正体だった。僕は先生を許すことはできない。けれど、その「屑」な部分を含めて、彼を教師として、そしてライバルとして受け入れるしかなかった。
「……あかり、行こう。僕たちは、僕たちの物語を生きるんだ」
僕はテレビを消し、あかりを抱きしめた。崩れゆく日常の隙間で、僕とあかりは、何にも邪魔されない「愛」という名の真実を、これからも泥の中で泥を糧にしながら、力強く咲かせていく。先生の放蕩なんて、僕たちの永遠の誓いの前では、ただの通り雨に過ぎないのだから。

