しゃべる人形

慰霊の祭壇は、まるで人間さながらの厳粛さに包まれていた。驚いたことに、祭壇の最前列にはでっかい猫とチビ猫が、まるで遺族のようにちょこんと座り込み、じっと友の眠る場所を見つめている。二匹が先に前足を揃えて頭を下げ、線香に手を合わせるような仕草を見せた後、僕たちが順番に静かに線香を上げた。
そこへ現れたのは、以前、僕の祖母の葬儀でもお世話になった、あの小さな葬儀屋の女性だった。彼女の手によって焚かれる香の匂いが、空気をさらに神聖なものに変えていく。これぞ坂上流の儀式。命の大小など関係ない、一つひとつの魂に最大限の敬意を払うその姿勢に、僕たちは胸を打たれた。
坂上さんは、目を赤く腫らしながらも、絞り出すような声で語り始めた。
「……バイキングが終わって、仕事も減って、先の見えない不安の中でこの子たちと出会ったんだ。命を育てるってのは、本当に大変だ。……なのに、俺が守りきれなかった。本当に悲しいよ」
坂上さんは祭壇にそっと手を触れ、続けた。
「でもな、こうして残ったみんなを育て続けること、それが何よりの供養だと思ってる。それにな、この子たちに新しい家族を見つけてやること。毎週金曜日の放送で、その命の輝きを届け続けること……それが俺たちにできる、最高の恩返しなんだよ」
その言葉に、正志の元カノである「サバカン宇宙」の彼女は、憧れの先輩の肩に顔を埋め、声を殺して泣きじゃくっていた。張り詰めた悲しみが、その場を支配していた。
その時だった。空気を切り裂くように、軽薄で無邪気な声が響いた。
「えーっ! そんな暗い顔してちゃダメだよ! これからは私が動物王国やるから! ね、ね?」
そこに現れたのは安子だった。吉野家のCMで見るニコルのように愛らしい笑顔を浮かべ、場違いな明るさで跳ね回る彼女の登場に、みんなの悲しみが一瞬、きょとんと驚きに塗り替えられた。彼女のあまりの唐突さに、涙を流していたはずの仲間たちから、思わずクスクスと笑い声が漏れる。
「安子……お前、ここはそういう明るい場じゃないだろ」
坂上さんが困惑しながらも、諭すように言った。
「猫が亡くなったんだぞ。お前、悲しくないのかい?」
安子は、ニコルのような愛らしい顔を少しだけ曇らせ、気まずそうに、しかし小さく頷いた。
「……悲しいよ。でもさ、悲しんでばかりいたら、あの子も空の上で退屈しちゃうでしょ? 私たちは笑って、あの子たちの分まで生きなきゃダメだよ」
その言葉は、悲しみのど真ん中にいた僕たちの心に、不思議な風を通した。
「……まあ、そうかもしれないな」
坂上さんがふっと肩の力を抜き、苦笑いする。すると、でっかい猫が安子の足元に擦り寄り、チビ猫もそれに続く。安子は屈託のない笑顔で猫たちを抱きしめた。
「よし、じゃあこの悲しみの分だけ、これからもっと大きな物語をみんなで作ろう! 動物王国、リニューアルオープンだよ!」
安子の突拍子もない提案に、周囲の空気が少しだけ温かくなった。悲しみは決して消えないけれど、安子の存在が、僕たちを「悲しみの沼」から引きずり出そうとしてくれているようだった。
「……ったく、お前は本当にしょうがない奴だな」
坂上さんがそう言って安子の頭を叩くと、さっきまでの張り詰めた緊張感は消え去り、そこには「命」という物語を共有する仲間たちの、静かで確かな絆が残っていた。
僕はその光景を眺めながら、心の中で誓った。この死を、ただの悲劇で終わらせない。安子が笑い、坂上さんが語り、二匹の猫が寄り添うこの瞬間こそが、僕たちがこれから生きていく証なんだと。
僕たちの桜坂高校の物語は、悲しみという雪を抱えながら、それでもこうして、誰かの笑顔を求めて、また新しいページをめくっていくのだ。