しゃべる人形

「悲しみは雪のように」――浜田省吾の名曲が、今の僕の心に重く、そして優しく降り積もっていた。
「降り続く雪のように、悲しみが僕を包み込む」。そんな歌詞の一節が、猫たちの寝息とシンクロして頭の中で何度も繰り返される。命の別れは、まるで降り止まない雪のように、全てを白く塗りつぶしていく。けれど、だからこそ、その雪の下で震えている「温もり」が、どれほど貴重なものかを思い知らされた。
僕はふと、スマートフォンを取り出し、連絡先の中の「あかり」という名前をじっと見つめた。
あかり。僕の物語の隣人であり、この冷たい夜を一緒に越えてくれるかけがえのない存在。もし彼女がいなくなったら、もし明日、彼女に「おはよう」と言えなくなったら――。そう想像しただけで、心臓が握り潰されるような恐怖が襲ってきた。
悲しみを経験するたび、僕たちは弱くなるのではない。誰かを失うことの怖さを知る分だけ、今そばにいる人を、もっと深く、もっと切実に愛そうとする強さを手に入れるんだ。
僕はそっと部屋を出て、ベランダに出た。冷たい夜気が頬を打つ。
「ねえ、あかり。今、そっちも空を見上げてるかな」
僕はLINEを開き、短くメッセージを打ち込んだ。
『今日、すごく悲しいことがあったんだ。猫の友達が空へ行ってしまった。……でもね、その悲しみのおかげで、君の存在がどれだけ僕の心に光を灯しているか、改めて分かったよ。もっと大切にするね』
送信ボタンを押して数秒後。画面が光り、あかりからの返信が届いた。
『知ってたよ。秋生くんが悲しい時は、私も空を見てる。私も、秋生くんを大切に思ってる。……明日、学校の地下喫茶室で会おう。また一緒に、新しい物語を書こうね』
その短い言葉が、降り積もった悲しみの雪を、少しずつ溶かしてくれた。
部屋に戻ると、猫たちはまだ眠っていたけれど、その表情は先ほどまでの苦痛に満ちたものから、どこか安らいだものに変わっていた。
僕たちは、悲しみを背負いながら進んでいくしかない。けれど、その足元には、雪が溶けた後に芽吹く小さな花があるはずだ。
「明日からは、もっとちゃんと伝えよう」
僕は自分自身に誓った。あかりと過ごす時間、仲間たちと交わす言葉、そして猫たちの鼓動。そのすべてを、一秒も無駄にしないように。悲しみは雪のように降るけれど、その雪があるからこそ、春の陽だまりの温かさが心底理解できるのだと、僕は信じている。
夜が明ける。新しい物語の、新しい章が、またここから始まる。