しゃべる人形

悲しみは、あまりに突然にやってきた。
翌朝、静まり返ったリビングで、一台の電話が鳴った。でっかい猫が、何を感じたのか、受話器の方へとふらふらと歩み寄り、前足で器用にボタンを押した。スピーカーから聞こえてきたのは、坂上忍さんの掠れた声だった。
「……秋生くんか。悪いな、こんな報告をすることになって。……あの子が、今朝、逝ってしまったよ」
その言葉を聞いた瞬間、リビングの空気が止まった。でっかい猫は、受話器を耳に押し当てたまま、小さく「ニャ……」と震えるような声を上げた。電話の向こうの坂上さんも、泣いていた。
その日、我が家は涙の海だった。でっかい猫もチビ猫も、昨日まで友がいた場所を何度も確認するように部屋を歩き回り、「ニャア、ニャア」と途切れることなく鳴き続けた。それは抗議のようでもあり、友の名前を呼んでいるようでもあった。二匹は毛を逆立て、食欲も忘れ、ただひたすらに、去っていった友を探して泣き明かした。
夜が更けても、二匹の鳴き声は止まない。一時は、僕も一緒に泣き崩れた。
時計の針が、1時を回り、2時、3時と過ぎていく。夜の静寂が、かえって彼らの悲しみを際立たせる。
僕は二匹を抱きしめた。
「大丈夫だよ……。あの子は、きっと虹の橋を渡ったんだ」
そう言ったところで、僕自身も言葉に詰まる。僕が書いている物語の中で、登場人物たちが経験する別れはいくらでも描いてきた。けれど、現実に目の前で愛する命が消え、残された命がこれほどまでに悲しみに暮れる姿を目の当たりにするのは、あまりにも重すぎた。
1時半、2時、2時半……。
時間がハンマーで打ち付けられるような音を立てて過ぎていく。悲しみの重みが、胸を何度も、何度も容赦なく叩き続ける。
「ねえ、お願いだから、少しだけでも眠ってくれ」
僕の願いも虚しく、二匹は疲れ果てて体を震わせながら、それでも小さな声で鳴き続けた。
この悲しみは、いつか物語の一部になるのだろうか。それとも、一生、胸の奥底で消えない傷跡として残るのだろうか。
深夜3時過ぎ、ようやく二匹は僕の腕の中で、泣き疲れて深い眠りに落ちた。その小さな寝息を聞きながら、僕は震える手で、日記の続きを書き始めた。
『命とは、あまりにも脆い。けれど、悲しみを共有できる仲間がいる限り、物語はまた、新しい夜明けを迎えるための糧になるはずだ』
窓の外には、少しずつ青白い夜明けの気配が漂い始めていた。悲しみの中でこそ、僕たちは本当の意味で「物語を生きる」ということの意味を知るのかもしれない。でっかい猫とチビ猫の温もりが、僕の腕の中でゆっくりと鼓動を打っている。それだけが、今の僕を支える唯一の真実だった。