しゃべる人形

坂上さんたちが乗ってきた大型のロケバスが、我が家の庭からバックで公道へ戻ろうとしたその瞬間だった。
ガシャンッ、という鈍い音が静かな夜に響き渡った。バスが後続車と接触し、そこへさらに追い越しをかけようとしていた車が巻き込まれる、いわゆる玉突き事故が発生してしまったのだ。
「うわっ……おい、大丈夫か!」
現場は一瞬にして騒然とした。ほどなくしてパトカーの赤色灯が僕の家の庭を照らし、警察官たちが駆けつけてくる。深夜の住宅街は、カメラクルーと警官、そして事故処理をする人々で大混乱に陥った。
坂上さんが焦りながら事情を説明しようとするが、状況は芳しくない。その時だった。でっかい猫とチビ猫が、まるで自分たちの縄張りが侵されたと感じたかのように、坂上さんの足元に割り込んだ。
「ニャァアァァ!」
二匹は警察官の足にまとわりつき、まるで「坂上さんは悪くない、悪いのは道幅だ!」とでも言いたげな、必死の鳴き声を上げ始めた。チビ猫に至っては、事故の衝撃で地面に落ちていた何かを前足で指し示し、警察官の注意をそちらへ向けようとさえしている。
「おい、猫までが供述してやがるのか……?」
警察官が困惑する。しかし、事態は重い。人身事故の可能性も考慮され、坂上さんと関係者、そしてその場にいた「目撃者」として、僕と猫たちまで署へ同行するように促された。
警察署の取調室。
坂上さんが事情を話す前で、でっかい猫とチビ猫は椅子の上にちょこんと座り、取調官をじっと見つめていた。
「いいか、何があったんだ」
取調官が問うと、でっかい猫は低い声で「ぐるるる」と喉を鳴らし、チビ猫は窓の外を指さすように鋭く鳴いた。不思議なことに、その鳴き声の抑揚が、事故の状況を再現しているように聞こえるのだから驚きだ。坂上さんが「ほら、こいつらも証言してるだろ! 状況はこうだったんだ!」と必死に翻訳(?)すると、警察官は呆れながらもメモを取らざるを得ない。
「……前代未聞だな。猫の証言を調書に取るなんて」
署内は、猫の「供述」を真剣に聞く警察官たちと、それを必死に説明する坂上さんという、シュールな光景に包まれた。
数時間後、ようやく事故の状況が整理され、猫たちの必死の訴えが功を奏したのか、過失の割合が明確になった。署を出た僕たちの前には、冷えた夜空が広がっていた。
「……参ったな。猫に助けられるなんて、俺も落ちたもんだよ」
坂上さんは疲れ切った顔で、でっかい猫の頭を優しく撫でた。
「いや、坂上さん。これは『物語』ですよ。猫が警察署で供述して、事件を解決した……なんて話、誰も信じないけど、僕たちの桜坂高校の携帯小説なら、一番人気になるはずです」
僕は、疲れ果てて僕の肩の上で眠り始めたチビ猫を抱きしめた。
警察署での騒動も、いつか僕たちの物語の一節になる。どんな災難も、この街で生きる僕たちにとっては、次に紡ぐべき一章のプロローグに過ぎないのだから。